iPhone(Voice Over編)インストラクター養成テキスト  ― Ver 3 ― タブレット端末インストラクター養成事業の推進に関する協議体 目次 氈@インストラクターとして必要なこととは  1 インストラクターに求められるもの  2 使うことができること使い方を       教えられることは違うとの認識  3 初心者に教えるときに陥りやすいこと  4 学習理論(PKについて)について知ろう  5 何を教えて何を教えないのか  6 大人への教え方がうまい人  Voice Overを使った基本的操作の指導法  1 教える上で、パソコンとスマートフォンの違い  2 ボタンなど本体構造  3 ジェスチャー  4 基本設定  5 画面構成を伝える指導法  6 ジェスチャーの理解を促す指導法 。 Voice Overを使った文字入力の指導法  1 様々な文字入力のやり方  2 文字入力の指導法 「 Voice Overを使ったカメラの操作の指導法  1アプリ「ColorSay」を使ったカメラの            操作方法と練習方法  2 QRコードを活用した     カメラのレンズの当て方の指導法  3 その他のカメラ操作の指導法  4 人物の撮影 」 標準アプリなどについて  1 利用状況   2 大まかなルール(ダイレクトタッチ操作)  3 電話アプリ  4 safari  5 コンパス  6 ボイスメモ  7 地図(行き先案内)  8 その他のアプリ  9 カメラで撮る際の環境設定 はじめに 言葉を定義して、その用語を使って進めていくことは、情報のやりとりを効率化する上で有効だと思います。  視覚に障害があり、音声を頼りに情報を得る人たち(音声ユーザー)には、音声情報で伝えていくことが主なコミュニケーション手段になります。  音声のみで情報を伝えて行く時には「具体的なイメージを作ってもらう」「全体から部分へ」という流れで教えていくことが重要です。構造的に教えていく、伝えていくことは口述教授をやる上では重要な攻略になってきます。  さらに、その時には専門用語を使って伝えます。専門用語を使えることは、情報の伝達効率を飛躍的に向上させることが見込めます。  この一連の情報を送る流れには、前提条件があります。  まず、送り手が使った専門用語を受け手が知っていないと使うことができません。  また、「全体から部分へ」の流れで送り手が伝えた内容について、受け手の頭の中でその内容が上手く構成されなかったら意味をなさないことになります。  情報の送り手は、学習者である情報の受け手の特性と反応を考慮しながら情報を送るという姿勢がベースにあることが必要です。 氈@インストラクターとして必要なこととは 1、インストラクターに求められるもの  インストラクター(instructor)には、どのようなことが求められるでしょうか。  インストラクター(instructor)という言葉は、すでにあるもの(struct)に積み上げるという意味があります。確実に必要なことを積み上げていくためには、対象者のことをきちんと把握しておく必要があります。対象者の今持っている知識、技術などの力量に応じ、進度、情報量を考えながら指導を進めていくことが求められます。 2、使うことができることと使い方を教えられることとは違うことの認識 (1)日本人であるからといって、皆が国語教師を務められるわけではない  冷蔵庫やクーラーなどの家電は、その仕組みを知らなくても使うことができます。しかし、冷蔵庫を作るには、冷蔵庫の仕組みをきちんと理解しておかなければ作ることはできません。  このことは、人にものを教える場合でも同じことが言えます。日本語を使っているから国語の教師になれるわけではないのです。  iPhoneの使い方を教える場合も同様です。「Voice Over」を使った文字入力には、「標準入力モード」「タッチ入力モード」「ダイレクトタッチ」の3つの方法があります。この3つの入力方法を熟知しているインストラクターから習う場合と、1つの入力方法しか知らないインストラクターから習う場合とでは、対象者側からすると、その結果が違ってくることが想像できます。方法を熟知しておくと、教える時の幅が広がり、対象者の状況に応じて何を積み上げていくのかを模索することができ、対応力につながります。   (2)視覚障害があるからといって、皆が視覚障害者の教師を務められるわけではない  前述した内容とつながってきますが、目の見えない状況に置かれた方が、皆視覚障害教育を担える人材になれるわけではありません。個人の個別的な問題と一般化できる問題を整理し、相手を見極め、相手に応じて、一般化したものから伝える内容を精査し、伝え方を考えていくというスキルが必要になってきます。  ただし、視覚障害のある人が教えることで、場合によっては教わる側のハードルが下がることもありますし、自分が使った経験から、教え方や使い方を考え出せることがあります。       (3)3つの知識、TPACK(ティーパック)という考え方   人にものを伝えようという時には、3つのフレームが必要だと言われています。  1つ目は教える内容の知識(CK=Content Knowledge)です。  iPhoneを起動するにはどうしなければならないか、アクセシビリティを設定するにはどうしなければならないか、といったものです。  2つ目は、教授法の知識(PK=Pedagogical Knowledge)です。  相手に応じて、この人は言葉を中心に伝えた方が伝えやすい、この人は点図など実際に触ってもらった方が伝えやすい、この人は「フリップ」や「スワイプ」のような横文字で伝えるのが適当、あるいは「指を払うように」や「トンと画面を押して下さい」など、実生活で使っている言葉で伝えるのが適当、 などを見極めていくという教授法の知識がある程度必要になります。  3つ目は、テクノロジーに関する知識(TK=Technological Knowledge)です。  点図が必要であれば作れる知識、また、点図が作れない場合は、お店で材料を集め、点図に代わって触れる物を作れる知識が必要です。  この3つの知識の円が重なっている中心の部分のエッセンスを持って教えることがバランスの良い教え方となります。 3、初心者に教えるときに陥りやすいこと  教えるという場面では、相手がいて、相手の状況があって、そこにどの様なタイミングで、どの様なものを積み上げていくのかが基本になります。  教えるという行為を行う際には、前述したように、内容に関する知識、伝え方を考えられる知識、それらを具体化、具現化する方法の知識を持っておく必要があります。  これらが整理されていれば間違った方向に行くことはありません。  以下、具体的に説明していきます。 (1)伝えすぎ症候群  オタクのままでは、なかなか良いインストラクターにはなれません。オタクであることが悪いというわけではなく、オタクだけでは良いインストラクターにはなれないということです。オタク的な人が、教える技術を持たずに教えると、次のようなことが見られることがあります。 @とにかく、全ての方法を伝えたがる  知識は沢山ありますので、相手に対して良かれと思ってこのような教え方になる場合があります。  そこに欠けているのは、相手がどのような状況なのかを見極めきれていないということです。  例えば文字の入力で、「標準入力モードは文字を選んでトントンすれば入ります」「次は、タッチ入力モードです。指を画面から離すと入ります」「次は、ダイレクトタッチ入力モードです。キーボードを『タップ』すると入ります」…というように全部伝えてしまいます。  聞いている人はオーバーフローしてしまいます。  いろいろあったことは分かるのですが、何一つ身に付いていないという状況になりかねません。  対象者が知識と技能を持っている人であれば、言葉のやりとりだけで上手く伝わりますが、これからiPhoneを使い始めようとする人たちには、この教え方では伝わりません。 A事細かく伝えたがる  初心者の人は、インストラクターの言っていることを全て身に付けないといけない、覚えないといけないという緊張感の中で聞いています。  そういうことを想定すると、後から少しずつ分かれば良いようなことは後に回してもいいのではないでしょうか。  例えば、iPhoneでアイコンの配置の並び替えをする時に、「アイコンを長押しすると、アイコンがアイコンの中心から左右に5度ずつくらい、1秒間に3、4回の周期で左右に揺れています」というように事細かく伝えようとする人がいます。できるだけ正確にイメージを持ってもらった方が良いだろうという教える側の配慮なのでしょうが、聞いている側からすると「これは覚えないといけないのか」と思ってしまいます。  事細かく伝える必要はなく、「こうすると、見た目アイコンが震えています」に留めていいのではないでしょうか。  今、何が必要なのかを見極めていけば、事細かく説明するようなことにはならないと思います。 Bとにかく、詰め込んで伝えたがる  限られた時間の中で伝えなければならない場合、前述した「アイコンの位置を替える」ことは重要なスキルではありますが、最初から必ず必要というわけではありませんので、差し当たり、インストラクターの方で使いやすいようにアイコンを配置しておくようにします。  新潟大学の渡辺先生の調査によると、iPhoneを買ったらまず何をやりたいかというと「電話」です。あとは、「ネットサーフィン」や「ラジオを聴く」です。ですから、まずは相手のニーズを見極め、決められた時間でどこまでをしっかりできるようになって帰ってもらうのかを考えます。  「詰め込んで伝えたがる」ことの最大の問題点は、いろいろにぎやかな時間が過ぎたが、結局講座が終わった後自分では何もできない、次回までiPhoneを持ったまま電話もとれず、どうすることもできない状況に陥ってしまうことです。  教える側は責任感を持って、「使えるようになってもらわないといけない」とやるのはいいのですが、対象者ができるようになっているのかを確認しながら次に進めていくことが必要です。 Cとにかく、カタカナだらけで伝えたがる  画面をはらう、画面の上で指を動かす操作に、「フリック」とか「スワイプ」とか「ドラッグ」などがあります。  指を画面上どこへ滑らせるかで、幾つか言葉がありますが、厳密にこれらの用語を使い分ける人がいます。  確かに場合によっては、厳密に使い分けることが重要な時もあります。しかし、あまりこだわり過ぎると、かえって前に進まないということにもなりかねません。  重要なことは、やるべきことをきちんと理解するということです。  「フリック」でも「はらう」でもどちらでも、対象者が理解しやすいということが大切なことです。  カタカナだらけで説明すると敷居が高いと感じられてしまいます。相手を見極めて、「指をはらって下さい」「トントンと、2回やって下さい」というように伝えた方が、経験的に良いような感じがします。 (2)対象者の特徴の把握、ニーズの把握  視覚障害のある人に教える時に考えておかないといけないことは、一目瞭然、百聞不如一見(百聞は一見に如かず)が成り立たないということです。  見えている人(晴眼者)の場合であれば、あらかじめ使い方を録画しておいた動画を見せれば大部分の人はそれで使えるようになります。しかし、視覚障害のある人の場合はそのやり方ができないので、一つ一つ丁寧に伝えていくことが必要になってきます。 @対象者の経験知の幅も多様であること  対象者の経験知の幅も多用であるということも押さえておく必要があります。  iPhoneやiPadの体験会をやっていると、「ホームボタンを押して下さい」と言うと、いつの間にか「Siri」が起動していたりします。「押す」と言うニュアンスが、ギューッと押し込まないといけないものだと思い、押すと「Siri」が起動したのです。また、「画面をポンと押して下さい」と言っても「ポーン」という感じに押す人もいたりします。  人それぞれで、言葉から受けるイメージや操作の基本的デフォルト値(初期設定値)、「押すといったらこう押すんだ」という感覚は違っていますので、配慮した方がいいと思います。  例えば「画面を『タップ』します」という時は、「トンと押します」とか、「ホームボタンをカチッと押して下さい」など、感覚をサポートする言葉を少し添えると、相手が多様であってもこちらがやって欲しいことをできるようになっていきます。  このような配慮は、パソコンを教える時とは違って、必要なことだと思います。  「ホームボタンをギューッと押して下さい」なのか「カチッと押して下さい」なのかが伝われば、何をやればいいのかの共通理解が、インストラクターと対象者の間で形成されやすくなります。 A対象者の運動能力にも個人差が大きいこと  画面を払う「フリック」という操作も大変で、どうしても「タップ」になってしまう人がいます。  「画面の上を、画面についているホコリを払うように指を動かして下さい」というと、それで一発で操作できる人もいますが、それでもできない人もいて、個人の運動能力の差が大きいです。  見えている人に教える時には、「フリック」の操作でそこまで混乱することはありませんので、視覚障害のある方に独特のことと思われます。  このことを踏まえて、どうして「フリック」が「タップ」になってしまうのか、原因は指の動かし方なのか、距離感がつかめないためなのか等、よく観察、分析して、解決策を考えていく必要があります。  また、「ダブルタップ」の2回目が同じ場所に指が降りるとは限りません。「ダブルタップ」の時に、2回目に違うところに指が降りると、「タップ」を2回したことになる場合があります。これはキーボード入力をする時などに問題となりますので、そういう傾向のある人の場合は標準入力モードはやめた方がいいという判断をしていきます。  iPhoneは、利き手でない方の手で持って、利き手で操作するというスタイルになりますが、状況によっては片手だけで操作することも重要だと思います。iPhone6などは大きくて指が届かないので、小さいiPhoneの方がいいこともあります。  教育用語では、学習の準備性のことを「レディネス」といいます。  この人はどういった言葉だと伝わりやすいのかを考える前提として、iPhoneを今から学ぶ人にどういった素地があるのかを見極めていくことが必要になっていきます。  はじめの会話のところでできるだけ早く見極められると、時間を有効に使えることになります。  また、授業の仕方を説明したものには「(注)授業の3方向コミュニケーションモデル」というものがあります。  (注) 授業の3方向コミュニケーションモデル 東京工業大学名誉教授 坂元昴教授が提唱したモデル。教授学習過程は、教師による「情報提示」、「生徒からの反応」、「反応に対するKR(Knowledge of Results 結果の知識)」の3方向のコミュニケーション過程で構成されているとするもの。  インストラクターは、決められた時間で目標を定めて、どのような内容を伝えるかを想定した上で、情報処理をし、情報提示をします。「iPhoneを起動するためには、ホームボタンをカチッと押します」というように伝えます。  ここで、「iPhoneの起動方法を教える」という目標に対して、対象者にダイレクト操作の方法で教えるとするならば、「ホームボタンをカチッと押して、『時間』を読んだら、ホームボタンから上にゆっくり撫でていき、『ロック解除』といったら、そこで親指をトントンとします」という情報提示をします。  これに対して、対象者が『ホームボタンをカチッと押す』という感覚に対して、自分の中で「家電の電源を入れる時のスイッチは2、3秒長押しをするので、電源を入れるためのホームボタンも長押しするのかな」と情報処理をした場合、2、3秒ホームボタンを押すことになります。  そうすると「Siri」が起動します。  インストラクターは一連の動作を見ていて、「『押す』と言ったら、ギュって押したな。どうしてだろう?家電のスイッチは長押しで電源を入れるので、そう押したのかな?」と推測し「今、Siriが起動しましたね。『押す』という動作が私のイメージと違っていたようです。『押す』というのはカチッと短めに押すことでした。すみませんでした」というように、対象者の行為に対し結果の知識を与えていきます。  「授業の3方向コミュニケーションモデル」とは、このように3方向の一つのユニットで情報をやりとりしながら授業を進めていくという一つの考え方です。  ここで重要なことは、インストラクターが対象者の反応を診断する、または評価する時に、「何故、こんなことをしたのか」「何故、『ダブルタップ』が上手くいかないのか」「『フリック』する時に、何故いつも『タップ』になってしまうのか」のように冷静に診断していくことです。  そのまま受け流していいこともあると思いますが、この場合のようにホームボタンを押す度にいつも「Siri」が起動していては効率が悪いと判断した場合は、対象者にきちんと返していく必要があります。 (3)オーダーメイド精神  NHKの教育テレビで、「高齢者のスマホ講座」などの番組が成立するのは、前述したように一目瞭然,百聞不如一見(百聞は一見にしかず)で、番組を観ればだいたいできるようになるという想定があるからです。 しかし、視覚に障害のある人のスマホ初心者向けの番組としてはおそらく成立しないと思います。言葉の説明だけで理解できる視覚障害のスマホ中級者以上の方であれば、ラジオを通してでも番組はできると思いますが、初心者の場合は、言葉だけでの説明では難しく、オーダーメイドしていくことが求められることになります。  相手のニーズ、操作する際の癖、運動能力を把握し、インストラクターと対象者の間の言葉の解釈についても見極めていくことが重要です。その上で、最も効率的な操作方法を熟慮して、相手の運動能力に応じた操作方法を提案していきます。  iPhoneなどのタブレット端末とパソコンとの最大の違いは、運動能力に操作性が大きく依存することです。  パソコンの場合は、キーの配列を覚えていれば、飛び出たキーを触って入力することで20分も30分もそこでつまずくということはありません。しかし、タブレット端末の場合は、「フリック」や「ダブルタップ」ができない場合には、どうしてもこの2つの操作を身につけてもらう必要があります。「ダブルタップ」ができない場合は、「スプリットタップ」で対応することもあります。このように、個々の運動能力により、操作の方法をオーダーメイドしていくあたりが、パソコンとは違います。  操作の面で言うと、当初は「スプリットタップ」でもいいですが、可能であれば先々やはり「ダブルタップ」を習得した方がいいと思います。なぜなら、「スプリットタップ」では、片手で操作ができないからです。  戻りますが、パソコンであれば、「tabキーがescキーから数えて上から3つ目にあるので、それを押せば次に進みますからね」というようにキーの位置が決まっています。しかし、タブレット端末の場合は曖昧で、画面をタップする場合はどこをタップしてもいいです。ただし、「スプリットタッチ」で「タップ」する場合は、ある程度画面の中の配列を意識しておかないとできません。操作が変わると操作に必要な概念も変わってきます。そこが、タブレット端末の難しいところでもあります。 4、学習理論(PKについて)について知ろう (1)最近接発達領域  最近接発達領域は、ヴィゴツキーという心理学者が唱えた考え方で、「個人的な問題解決によって定められる実際の発達レベルと、大人のガイドやより能力のある仲間との協働による問題解決によって定められる潜在的発達レベルの差」のことを言います。  一人でできることがあります。また、誰かの協力や助言があってできることがあります。一方で、協力や助言があってもできないことがあります。この時、自分で自立してできる活動と誰かの協力や助言があってできる活動の間には、活動の差があります。誰かと一緒にできることを、ヴィゴツキーは「潜在的発達レベル」と呼んでいます。「潜在的発達レベル」は、「実際の発達レベル」つまり自立してできるレベルよりも大きいはずです。「潜在的発達レベル」から「実際の発達レベル」を引き算すると差分ができます。その部分を「最近接発達領域」と言います。  私たちが指導していく時には、まずはこの「実際の発達レベル」から課題設定をするようにします。完全に自立できる発達レベルから課題設定をして、次に助言したらできるというレベルに課題設定をします。そして、助言したらできるという発達レベルのところも、完全に自立していけるように目的を設定していきます。  具体的に、Voice Overの操作練習で、説明していきます。  設定でショートカットにVoice Overを事前登録しておきます。 次にVoice Overをオンにします。 「設定」→「一般」→「アクセシビリティ」へと進み、「Voice Over」の項目で、Voice Overをオンにすると、「Voice Overの操作練習」のメニューが出てきますので、それを選択します。  「Voice Overの操作練習」は、自分のジェスチャーをiPhoneがどのように認識しているのかをフィードバックしてくれるものです。 この機能を使って、ジェスチャーがどれくらい自立できているかを評価していきます。  「タッチ」ができるか? できるようになるか?「ダブルタップ」ができるか? できるようになるか?等、状況を見て評価していきます。  「右フリック」「左フリック」についても同じように確認していきます。 その際「フリック」が、「タッチ」になる場合があります。この場合は、しばらくやってみても難しい時には、初回はあまり時間をかけない方が良いでしょう。  押さえておかないといけないのは、完全自立です。  操作する人が「右フリック」しているつもりでも、iPhoneに「タッチ」と判断されることがありますが、ここでは、操作する人がどう操作したかではなくて、iPhoneがどう判断したのかが重要です。  最低「ダブルタップ」ができれば、Voice OverでiPhoneは操作できますので、「ダブルタップ」を連続して10回行なって、10回ともダブルタップが成功するぐらい自立度を上げておくと操作が楽になります。時々「タッチ」が混じってしまうと、再現性が下がってしまいます。  初めての操作練習の時には、「ダブルタップ」を10回連続して成功するようにしていきます。  できるようになったら、「タッチ」と「ダブルタップ」を交互にやってもらいます。他のジェスチャーと混ぜて「ダブルタップ」ができるかを確認していきます。  「画面を触って、ダブルタップ」の操作は完全自立で、他は助言があればできるということなら、次の指導に移っていくことができます。   例えば、ホームボタンを押し、ホーム画面に移ります。次に画面を指で隅々まで触ってもらい、Voice Overの音声が画面上にあるアイコンを1つずつ読み上げていることを告げます。Voice Overが「時計」と読み上げたら、そこで「ダブルタップ」するように助言し、「時計」アプリを立ち上げてもらいます。  この場合、操作する人の実際の発達レベルは、「画面を触って、ダブルタップできる」なので、次に設定する潜在的な発達レベルをどうするかについては、実際の発達レベルを利用して、潜在的な発達レベルを設定し、助言しながら進めていきます。  例えば、画面を触っていて気になったアプリを探してもらい、見つけられたら「ダブルタップ」して、立ち上げてもらいます。うまく立ち上がったら、ホームボタンを押し、アプリを終了してもらい、助言をしながら次に気になったアプリを探してもらい、立ち上げていくという単純な行動のくり返しを企画していきます。  「ダブルタップ」のタイミング、アプリの終了などが助言によってできることなので、ここが最近接発達領域ということになります。この部分を何回もやった方が効果的です。     重要なことは、この最近接発達領域を徐々に小さくしていって、実際の発達レベルと潜在的発達レベルを同じ高さにしていくことです。そのためには、助言を少なくしていく必要がありますので、そこは注意しておかなければなりません。  最終的に、いろいろ触ってアプリを起動して、アプリの内容をいろいろ調べて、ホームボタンを押して終了するという行動を完全に自立させることができれば、目標を達成したことになります。 (2)適正処遇交互作用  適正処遇交互作用は、クロンバックという心理学者が提唱した理論です。  学習効果は、学習の受け手によって攻略を変えることで、より効果的になるというものです。  運動能力が高くiPhoneの画面構成などを認識している人と、運動能力が高くなくiPhoneも初めての人がいた時に、ベテランのインストラクターであればどちらの人も教えることができます。  しかし、新人のインストラクターは、ある程度使い慣れた人には上手に教えることができますが、初めての人にはあまり上手に教えることができません。  ベテランのインストラクターは、いろいろな攻略法を持っています。相手の状況に合わせて、どの引き出しを使うのか、実際に選んでいます。ですから、どんな人の状態であっても対応できる可能性が上がっている訳です。  指導していく時に、いつも同じ方法で対応できることはありません。  相手の身体能力や認知能力、iPhoneの画面を見たことがあるかないか、目が見えていたときにiPhoneを使っていたことがあるかないかなどの状況に応じて、指導攻略を変えていく必要があります。 (3)認知発達理論  認知発達理論は、ピアジェという心理学者が唱えた考え方です。  物事を理解していく上では、まず具体物による操作を十分にして、形式的な操作に進めた方がスムーズにいきます。  iPhoneのホーム画面の様子を説明する際に、具体物として点図を用い、実際に触ってもらいながら「1行に4つアイコンが並んでいて、それが5行あります」というように説明していきます。  「ページナビゲーション」の説明では、点図で横線に相当するところが「ページナビゲーション」にあたりますが、iPhoneを実際触ってみると「全ページ中◯ページ目 調整可能・・・」とVoice Overは読み上げます。点図を使いながら説明していくのと、口頭のみで「そこは、ページナビゲーションです。ホーム画面を1ページ、2ページと移動できます」と説明していくのとでは、画面の様子を概念化していく上での効果が変わってきます。  さらに「ページナビゲーション」にフォーカスをあてると、iPhoneが、「全ページ中◯ページ目 調整可能」の後に「値を調整するには、1本指で上または下にスワイプします」と読み上げます。  音声ユーザーに教えていくので、インストラクターはiPhoneの発声を引用しながら進めていく必要があります。ですから、iPhoneの発声に注意しておきます。  「ページナビゲーション」の下にある「ドック」についても、点図を触りながら、ページが変わっても、ドックは常に変わらないことを説明していきます。  パソコンとスマートフォン、タブレットを音声ユーザーに教える上で大きな違いがあります。パソコンの場合は、見えない人の画面イメージと見える人の画面イメージを一致させる必要はありません。パソコンでは、画面のどこにあるかというよりも手順の方が重要です。しかし、スマートフォン、タブレットでは、画面イメージがあった方が、効率的に操作できます。  視覚障害が先天的なものなのか、中途なのかにも関係しますが、触図を使った方が分かりやすい場合と言葉をベースにして説明した方が分かりやすい場合があることを頭においておく必要があります。  言葉で伝える上でのポイントとしては、「文を短くする」「構造的に伝える」「再現性を持った言葉(同じ言葉)を使う」などがあります。  ジェスチャー(動作)についても、音声ユーザーは視覚的に動作を模倣することは出来ません。  「ダブルタップ」を上手くできない場合、爪があたっている場合があります。その場合には、机の上でダブルタップした時の音をフィードバックとして使っていきます。  「フリック」を上手くできない場合は、「ホコリをすっとはらう」というように、ホコリという具体物をイメージしてもらい、それを「はらう」というように説明していきます。  この時にも、先天的な視覚に障害のある人の場合には、動作イメージが全く異なる人も中にはいるということを認識しておく必要があります。 (4)試行錯誤学習  試行錯誤学習は、ソーンダイクという心理学者が提案したやり方になります。  試行錯誤学習における「試行錯誤」とは、正反応と誤反応を繰り返すことを言います。  いつも正反応だけがくるのではではなく、時々誤反応がある中で、最も適切と思われる対処方法を学んでいく、つかみとっていく学習方法です。この場合、反応の正誤の知覚可能性が高い必要があります。  学習者がiPhoneを操作します。iPhoneから反応が返ってきます。この時、その反応を見て、次にどうするかを企画します。つまり、iPhoneからの反応(返ってきた情報)をきちんと受け取る必要があります。  音声ユーザーにおいては、聞きどころを教えていきます。  例えば「iPhoneが休止状態になっている時にホームボタンを押したら、iPhoneは何と言いますか?」と、実際にホームボタンを学習者に押してもらいます。そうするとiPhoneは時刻を読み上げますので「そうですね、時刻を言いますね」と、いうふうに一つひとつの聞きどころを教えていきます。  「時間」を言ったら正反応、「ピピッ」と言ったら誤反応ということを学習者が分かれば、正反応率を上げていくように学習をしていきます。  リアクションは音、音声になります。その視点で、iPhoneの正誤反応のリアクションを学習者がとれるようにきちんと教えていきます。  ロック解除画面では、iPhoneは時計を読み上げますが、起動したら1行1列目にあるアプリを読み上げます。ここが聞きどころで、正反応、誤反応を聞き分けるポイントです。  ホーム画面で左右フリックをすると、カーソルを動かすことができます。左にフリックをし続けていくと、それより左にはアプリはないという意味の「ポン」という情報が左フリックをする度に返ってきます。  また、改行の時も音は返ってきます。下の行に改行する時と上の行に改行する時の音も違います。  音声ユーザーは、音のリアクションが命なので、インストラクターは音に集中して欲しいと思います。晴眼の方は見ることに慣れているでしょうが、聞くことに慣れていないと思いますので、そこの違いはきちんと認識して欲しいと思います。  全てを一度に教えるということではなく、教える局面がきた時に教えられるように、どのような反応があるのかを知っておく必要があります。  試行錯誤学習を進めていくには、正反応、誤反応を知覚できないといけません。つまり、正反応、誤反応の知覚可能性を高めていけるような働きかけをしておかないと、試行錯誤しようにもできないことになります。  インストラクターは、これらのことをきちんと伝えていく必要があります。 (5)完全習得学習  完全習得学習は、ブルームという教育心理学者が提唱した考え方です。  学習者のほぼ全員が教育内容を完全に習得するための学習理論です。 学習が成立したか、しなかったのかという学習の出来不出来はどうしても出てしまいます。しかし、出来不出来の差は、学習者個人の資質によるものではないと我々は解釈する必要 があります。 学習に必要な時間を掛けなかったことによるものではないかとすれば、これまで述べたよ うに、相手に応じた学習攻略、内容を用い、効率化を目指すことを前提に時間を掛けていく必要があります。  完全習得学習を進めていく上で必要なことは、学習過程でテストをしていくということです。このテストのことを、教育界では形成的評価と言います。  教育の中では、評価は3つあります。  1つ目は診断的評価、2つ目は形成的評価、3つ目が最後の評価です。  学習者に与えていく課題(タスク)はステップに分けられます。  完全習得学習を進めていく上で重要なのは、その各ステップにおいて、いかに形成的評価を進めていくかです。  評価をするにあたっては、その基準が必要になってきます。  評価の基準も2つあって「規準」と「基準」があります。  ステップ1、ステップ2というのは、いわゆる「規準」で評価項目になります。  それに対して、ステップ1は何点だという評価は「基準」になります。  例えば、各ステップに対して、  1「完全自立」 2「少しの助言で遂行可能」 3「大部分の助言で遂行可能」  4「全て助言すると遂行可能」の4段階で評価するようにしているとします。  このように評価することで、どこでつまずいているのかが良く分かるようになります。どの学習は成立していて、どの学習が成立していないのかが分かりますので、後でどの学習に時間をかければよいのかが分かります。 タスク「iPhoneの全体を把握する」  ◯ステップ1 iPhoneの裏表がわかる  ◯ステップ2 iPhoneの上下がわかる  ◯ステップ3 ホームボタン、電源ボタンがわかる というステップを立てたとします。 各ステップの評価を考えていきます。  ◯ステップ1、2   上下左右、裏表をバラバラに置いて、裏表がわかるか、上下が分かるかについて、上記の4段階の    評価で自立度を評価していきます。  ◯ステップ3   iPhoneを正しく置き(持ち)、指でホームボタン、電源ボタンを触ることができるかについて、自   立度を評価していきます。  完全習得学習では、全てのステップを完全自立させていくことが目標になります。しかし、できないことを長くさせられることは、ストレスになります。  この場合は、最近接発達領域に働きかけ、もう一度できるところからスタートするようにします。  そこで、意識改革、成功体験をして、もう一度トライします。  適正処遇交互作用のところでも述べましたが、言葉で説明するよりも、直接手をとって「ここだよ」と説明した方がいいのか、などを考えながら行っていきます。 実習  タスク「スリープ状態のiPhoneを起動させる」についてステップ立ててみましょう  ステップを立てる上で、iPhoneがどのような状態にあるのかは重要なことなので、配慮事項として「このタスクを実行するためには、パスワードは解除しておくとか、指紋認証にしておく」などと整理しておきます。  また、試行錯誤学習をしていきますので、iPhoneからどのようなリアクションがあるのかということも合わせて伝えていくことが重要になります。このようなことを想定し、タスクに対して必要なステップを立てていきます。 5、何を教えて何を教えないのか (1)ニーズへの近道を探る   ニーズを達成するのに、対象者にとって最も効率的な方法を熟考するようにします。  インストラクターが近道と感じる操作方法が、必ずしも対象者の近道とは限りません。 例えば、今回は最低でも電話を取れるようにしておきたいと目標設定したとします。  一番簡単なのは、画面を二本指でトントンとすればかかってきた電話は取れます。  これまでの経験では、30分程度二本指で練習すれば、大体電話は取れるようになります。しかし、どうしても難しい人がいるかもしれません。その時には、どのようにしていくのか一緒に模索していく必要があります。大事なことは、ニーズを達成していくということですから、達成に向けてどのような操作を提案していけるかが重要なことです。  前述したように、「ダブルタップ」か「スプリットタップ」かが違えば、操作方法も全く変わってくるので、様子を見ながら進めていく必要があります。見極めをしていく際に重要な点は、再現性がどれくらい高いのかということです。インストラクターがいないとできないこと、インストラクターがいなくてもできることを見極めます。  例えば、「タップ」→「フリック」をする途中に、一回「タップ」が混ざってしまい、本当はもう一回「フリック」したら起動したいアプリにたどり着けたのに、下の方のアプリを選んでいる状況があったとします。インストラクターがいれば、「あ、今とんでしまいましたね」という助言で、左フリックで戻っていかないといけない状況なのだと対象者は判断ができます。  ここで、インストラクターがいない場合、同じような判断ができるのかということを見極めます。  このように随時、対象者の様子を診断的に見ながら、操作方法も含めてニーズへの近道を検討していく必要があります。  インストラクターが一緒にいるからできるということから、確実に一人でもできるところまで熟達させていくという視点で見ていくことが必要です。 (2)必要最小限のことから確実に  「電話が取れるようになる」「時間が分かる」というように、必要最小限のことから確実にできるように、一つ一つ技術を高めていくという考え方が重要です。  「2.初心者に教えるときに陥りやすいこと」でも述べましたが、「いろいろなことができることは分かったけれど、この2時間で何もできるようにならなかった」ということは避けなければなりません。何をできるようにしていくのか、それに近づくためには最小限の労力でという視点で考えていきます。 (3)一人でできることを一つずつ   一人でできること、一人でできないことの重なり部分を「最近接発達の領域」といいます。教育ではここに働きかけることが効果的とされています。一人でできることを把握し、インストラクターと一緒にできることを講習では取り扱い、徐々に一人でできることへと変化させていきます。  「フリック」でアプリを選択する場面で、時々「タップ」が混ざってしまうという状況があったとします。インストラクターがいることで、「タップ」が混ざったことに気づけるのでアプリを起動できるのです。しかし、この状態で講習を終わってしまうと、その人は家に帰って一人でアプリを起動しようとしても途中で「タップ」が混ざっていることに気づかず、「右フリック」することで目的のアプリに辿りつくと思って操作し続けることが予想されます。  次の講習の時に、インストラクターが「アプリは起動できましたか?」と尋ねても、「いや、画面になかったです」ということになってしまいます。   リカバリーできるところまできちんと行なうことが、一人でできるようになることであると考えていきます。  視覚に障害のある人に教える場合は、一人や二人に対して教えることになります。  そうするとついつい口出しをしてしまいたくなります。もちろん、良かれと思ってやっているのですが、講習の最後まで口出しを続けてしまうと、一人で操作する時に同じような状況に遭遇しても対応できないということになります。少人数が故に、ついつい説明しすぎてしまうという状態に陥りやすいことがあります。  また、インストラクターに共通して言えることではないかと思いますが、「沈黙が恐怖」に感じるインストラクターは初心者で、沈黙の意味をしっかり理解出来るインストラクターはベテランだと言えます。沈黙が怖いので、ついついつなぎのために喋ってしまったり、言わなくてもいいことを言ってしまったりします。  意味がある間であれば、必要なことなので「待つ」ということが重要なことです。  対象者が失敗し、右往左往しながら「あれ」と言い始めても、インストラクターはグッと我慢して待ちます。対象者の方から「これって、行き過ぎていますか?」と言われたときに、インストラクターは「よく分かりましたね」、さらに「行き過ぎたことがどうして分かりましたか?」と尋ねます。  「『メール』や『Safari』はいつも最後の方に出てきたから、自分の起動したいアプリは通り過ぎているかと思いました」という返事が対象者から返ってきます。そこで、インストラクターは「そうですね、行き過ぎていますね。では、『左フリック』しましょうか」ではなく、「行き過ぎていますから、どうしますか?」と対象者に考えてもらいます。  最初に学習したジェスチャーのことを覚えていて「『左フリック』で戻ればいいのかな」と対象者から引き出せたら大丈夫です。同じような事態になっても、自分で回避できるようになります。  よくあるのは、「言語指示過多」です。対象者に考えてもらう時間を与えずに解決方法を提示してしまうと、どこまで分かっているのかという診断ができません。一人で操作していると何らかの問題に突き当たりますので、その時に自分で回避していけるようにしておかないといけません。そのためには、インストラクターが「待つ」ということが重要ですし、対象者の発した言葉を受け止めて、次につなげていくことが大切です。 (4)身近な言葉から少しずつ  「2.初心者に教えるときに陥りやすいこと」でも触れましたが、「やたらカタカナで教える」ということがありました。用語が悪いわけではありません。情報を正確に流通させるためには、用語は必要です。  ただし、用語を使う前提としては、対象者が同じ素地を持っているということが必要になります。  例えば、病院に行って医者が同僚の医者に話すようにインフォームドコンセントを行なっても、我々はほとんど何も分からないと思います。ですから、医者は、用語をできるだけ分かりやすい言葉にかみ くだいて我々に教えてくれます。  このような能力が、インストラクターには必要です。  対象者が初心者の場合は、専門的な用語を使わずに身近な言葉から少しずつということが必要です。しかし、習得していく段階において、きちんと用語は教えていった方がいいと思います。  なぜなら、一般的には、「フリック」は「フリック」と書いてあり、「はらう」とは書かれていません。用語を知っていた方が、自分で情報を調べようとした時には便利だからです。  身近な言葉で言い換えられる用語は言い換えて、対象者の様子を見ながら、少しずつ用語に変換していくという作業を行なっていきます。 (5)うまくいかない時こそインストラクターの腕の見せ所 @なぜ再現性が低いのか、原因をつきとめる 上手くいかないと指導者が判断するのは、再現性が低い場合です。視覚に障害のある人にとって、再 現性の低さは操作性を下げることになり、大きな影響となります。 ですから、視覚に障害のある人に教えるときには、再現性が勝負と言ってもいいくらいです。繰り返しになりますが、「こうすれば必ずこうなる」ということを確実に増やしていくことが重要です。  そのためには、「操作が定着している」「確実にできる」ということが前提になります。 その時は、見えているインストラクターであれば、手の動きなども含めて見ていきます。確認が難し い場合には、テーブルの上で操作してもらい、音を聴くとか、インストラクターの手の甲の上で操作してもうとか、もう一度Voice Overの操作練習に戻って評価するということを行なっていきます。  再現性が低い場合において、その原因が分からず、試行錯誤学習ができないという状況は避けなければいけません。  例えば、「フリック」操作で、3回に1回は「タッチ」になっているということを受講生が自覚することが重要です。  自覚していれば、「フリック」してもアイコンを移動していかない時に、自ら「タッチ」になっているかもしれないと推察でき、試行錯誤学習ができるようになります。  「フリック」をする場面で、必ず何度かは「タップ」になってしまう場合、どうしても「フリック」が難しい時は「スプリットタップ」を使うという見極めをすることもあります。  当初はそれでもいいのですが、「スプリットタップ」だけでは、やはり限界がきます。「フリック」で移動していくことの最大の長所は、情報を余すことなく、順番で得ていくことができることです。「フリック」が今はできなくても、1、2ヶ月後はできるようになるという目標設定が必要になります。そのためにも、なぜ再現性が低いのか原因をつきとめ、方法を考えていきます。 A原因が分からない場合は、いくつかの方法で試してみる  人差し指の回外、回内運動で「フリック」をしますが、上手くいかない場合は、人差し指の屈曲運動で「フリック」をするとか、「親指をつけてやってみる」「指を代えてやってみる」「持ち手を代えてみる」「フレームに指をつけておいて、一気に画面に入れてみる」「指だけを動かしてみる」など、いくつかの方法で試してみるのも一つの方法です。 B決して、原因を利用者に求めない  操作がうまくいかない場合、やりとりをしていると対象者に対して「あなたが悪いんだ」というような雰囲気になりかねません。インストラクターは、決して対象者が「自分はだめだな」と感じないように、励ましたり、言葉をかけたりしながら進めていきます。  もちろん一番大事なことは、できるようになるという喜びを感じてもらうことです。そこに短時間で持っていけるようにインストラクターは考えていきます。  「あと5回練習したらできるようになるのでは」と思うことがあると思います。そのような見極めが必要ですし、見極めにはインストラクターとしての経験が必要ですので、当初は難しいかもしれません。  ですから、まずは対象者に原因を求めるような雰囲気にはならないようにすることが大事です。  また、時間内で、できるようにならないこともあります。そんな時は「今日は、フリック操作頑張ってやりましけどできませんでしたね」「人差し指でやるよりも親指でやった方が成功の確率が高くなっていますから、今後は親指でやっていきましょうか」のように、結果解決ができなくても,次につながる終わり方をします。  対象者からすると、「結局できなかった」ということが残ってしまいますから、その時間内で、できるようになったことはきちんと押さえておくということで、意識的に次につながる終わり方にするようにします。 (6)生活の中で活用することの意味  iPhoneなどのスマートフォンとパソコンとの最大の違いは、身に着けているところだと考えられます。  いつも身に付けられる一般的な端末だからこそ、今まで享受できなかった情報を得られる可能性が増えてきます。  身に付ける機器で、色が分かる、光がある、電気が点いているか消えているか分かる、というようなものも今までありました。仕事上や生活上でどうしても必要とする人は、それらを購入して利用していました。  別に必要としない人も一定数いたと思います。その人たちは、色や明るさが分からなくても生活はできたと思いますが、分かれば生活が豊かになっていく可能性があります。しかし、わざわざパソコンを起動し、CCDカメラを接続して色を調べたり、明るさを調べたりすることはしません。 その面倒さを埋めるものがスマートフォンだと思います。  身に付けているので、ポケットからサッと出して起動し、「フリック」を何回かした後、「Light Detector」のアプリをトントンして起動すれば、明るい、暗いということが分かります。また、「Color Say」を起動すれば色が何色か分かります。そのくらい身近になると、ちょっと使ってみようかなと思えるようになってきます。電話という基本的機能にプラスして得られる利得は大きいと思います。  ここで、重要なことは何かと言いますと、例えば「『iよむべえ』のアプリを使うと活字が読めるようになって便利ですよ」ということは、ある程度の知識があれば伝えることができますが、これだけではだめだということです。生活の中で活用するという視点で提案したり、使い方を考えたりしていくことが重要です。「『Color Say』のアプリは、色が分かりますよ」というだけでは、視覚に障害のある人はおそらく「色が分かる?」「で、それどうする?」となります。  その時に、「服を着た時に、自分の袖の色とズボンの色が同系色かどうか分かります」とか、「出勤前の靴を履く時に靴下両方を見て、靴下が黒、白の色違いになっていないか確認ができます」というふうに、生活の中でどう使えば便利になるかが想像できる提案の仕方が必要になってきます。  スマートフォンは道具ですから、そのような提案をしてもあまり関心を示さない人がいます。その人は実際スマートフォンがなくても、これまで生活をしてきていますから。しかし、講習の中で実際に使ってもらうと「これ、便利だな」と言い始める人は結構います。ですから、実際に操作してもらい、試してもらうということが重要です。  ロービジョン(弱視)のリハビリテーションの本に「いろいろなことに取り組んでいれば、自分でできることは増えていきます。そのことは、先々その人たちには重要な経験、スキルになっていくはずです。しかし、家族に見える人がいると、家族によってそのロービションの人のADLやQOLが下げられている場合があります」と書いてありました。  「ねえ、靴下見て」と言うと家族は見てくれます。家族は良かれと思ってやっているので、家族に「もう、靴下の色を教えないで下さい」と言うわけにはいきません。我々にできることは、本人の中で「これ、おもしろいな。やってみようかな」と思ってもらえるようにしていくことが重要です。  いつ何が起きるかわからないので、自分でできるようになることが重要なのです。  先ほどの色の話ですが、靴下で実際にやってみるとします。  それぞれの人で特性がありますので、なかなか理解してもらえないこともあれば、スッと理解してもらえることもあります。  いきなり色を調べようとした時に、どうしてもカメラに写らないということがあります。そのような時には、iPhoneの持ち方を確認します。まず、iPhoneの画面側から左手をかぶせて、iPhoneの左のへりに小指と薬指をあて、iPhoneの右のへりに親指をあてます。そうすると、人差し指が余ります。この人差し指を、液晶の右上に置くようにします。こうするとカメラの位置が分かります。カメラを使う時にはこのように持ちましょうと伝えます。  次に、何か物を右手で持って、カメラ位置にピタッと合わせてもらい、そのまま平行に離していきます。この練習を何度か行なってから、次は靴下でやってみます。靴下にカメラのレンズをピタッと合わせます。「Color Say」が「黒」とか「暗い灰色」と言ったところで、平行に離していくという練習をします。この時に平行に離すことができず、天井にカメラが向いているということもあります。  対象者の特性に合わせて考えていく必要がありますが、どうしてもできない場合には、机の上に靴下をおいて、そこから真上に上げていくようにするということなどを試してみます。  対象者が生活の中で利用するために、どのような操作方法でやっていけば実効性が高いのかという視点で考えていきます。  その他、生活の中での利用場面を想像すると、お札を調べる、ラジオを聴くというニーズは高いので、例えばラジオの選局の仕方や止める時の操作について、講習の中で実際にやってもらったりするといいと思います。  いずれにしても、単なるアプリの紹介ではだめで、対象者が生活の中で使った時の利得をイメージできるように説明し、実際に体験してもらうことが重要ですし、その体験が効率良くできるような環境設定や操作方法を工夫していく必要があります。 6、大人への教え方がうまい人  教える際のポイントを「オトナ相手の教え方」(関根雅泰著)の本を参照にしながら整理します。 (1)物腰がやわらかい  大人へのうまい教え方の一つ目は、物腰をやわらかく、あまりトゲトゲしないということです。 (2)説明が丁寧  次は、説明が丁寧なことです。しかし、バカ丁寧になってはいけません。  一つ一つ、横柄にならずにきちんと伝えていくことです。  視覚に障害のある人に説明する時に、説明が丁寧であるとは、「見えているから分かる」という教え方はしないということです。「ここが、こうなって・・・」というように指示代名詞ばかり入れて説明しても伝わりません。また、自分が意識しないけれど、誤解されてしまう伝え方も結構あります。例えば、「トントンと2回『ダブルタップ』します」と伝えたとします。これは、「2回『ダブルタップ』する」と伝わってしまいます。  上手く伝わらない場合は、自分の発信している言葉を自分の中で反すうして言い方を工夫してみることが必要です。  見えている方に教える以上に、視覚障害のある方にとっては言葉が重要だと思います。 (3)ポイントが明確  今から何をするために何をやるのかを伝えてから教えていくことが、教わる側からすると整理して聞きやすいと思います。 (4)こちらの気持ちをわかってくれる  「フリック」のできない人がいたら、「フリック」のできない人の気持ちをできるだけ理解できるようなインストラクターであってほしいと思います。ついつい忘れがちになりますが、自分ができていなかった時の気持ちを覚えておくということは、財産になると思います。 (5)何が分かっていないのかを把握した上で教えてくれる  これは対象者のレディネスのところでも触れましたが、何が分かっていないのかを早く見極めると時間を有効に使った指導ができます。  「分からないことが、結局分からない」という言葉は、初心者がよく言うことですから、「何が分からないですか?」と聞くことは有効な質問とは言えません。そこは、インストラクターが見極めていくことが重要になっていきます。その時には、前述した「コミュニケーションの3方向モデル」をしっかり意識していきます。こういう情報を投げかけて、こういうリアクション(反応)があるということは、対象者はどう考えているのか、それに対してどう情報を与えると理解が進むのかをしっかり考えながら進めていきます。 (6)こちらの話しも聞いてくれる  ついつい時間が30分間しかないと思うと、インストラクターのペースだけで進んでしまうことがあります。  新しい機械に切り替えて利用するということは、多かれ少なかれ不安があるものだと思います。特に、操作が難しい人であれば、余計にそのような不安感は高まっていくと思いますので、相手の気持ちをくみながら進めていく必要があります。  そのためには、時間の許すかぎり対象者の話を聞きながら進めていくことが大事です。 (7)「教え上手」は「相手本位」な人である  ニーズをしっかりとらえて、操作方法を熟考し、適切な言葉、適切な方法で伝えていくことが出来ればいいと思います。  『voice over』を使った基本的操作の指導法  1、教える上で、パソコンとスマートフォンの違い  視覚に障害がある人にスマートフォンの使い方を教えるのが難しいのは、凹凸のない平べったい画面の向こう側の世界を教えなければいけないことです。  触ることができない画面の向こう側の事をいかに伝えていくかということが難しいのです。  視覚障害のある方のパソコンボランティアをしたことがある人は分かると思いますが、パソコンはキーボードを触ることもできますし、一つひとつの操作のステップを止めながら、確認しながら教えることができます。例えば「Tabキーを1回押して下さい」とか「Windowsキーを押して、上向き矢印キーを5回押して下さい」というように一つひとつの手順を明確に伝えながら、「Windowsキーは、キーボードの左から何個目にあります」というように触って確認することができます。 操作を止めながら教えることができますし、「Windowsキー」の場所さえ分かれば、「Windowsキー」の押し方は、1本指でも2本指でも構いません。  スマートフォンの難しいところは、操作自体触れないというか、触れるものというと平べったい画面があるだけです。その画面に対して、「ダブルタップする」とか「フリックする」とかしながら操作していくのですが、そこにはキーボードの操作の時とは違うスキルが求められるようになってきます。  キーボードであれば、ゆっくり自分のペースで触りながら確認して、適切なところを押せれば、それが多少長く押しても、短く押しても問題ではありません。 PCの操作では、運動系の動作スキルといえば、「ボタンを押す」ということだけではないでしょうか。 スマートフォンでは、「画面を押す」「画面をはらう;フリック」ということだけではありません。 「画面を押す」のも、1回押すのか、2回押すのかで結果が違いますし、「画面をはらう;フリック」のも上手くはらわないと「タッチ」になってしまいます。ですから、上手く「はらう」ことを身につけていく必要があります。このようにスマートフォンでは、新たな運動系の動作スキルを身につけていく必要があります。  手を持たれて、あっちこっち触らされるというのは、あまり気持ちの良いものではないですし、人によっては嫌だったりします。触って理解していくという学習理論からすると、相手の手を持って触らせるよりも、自分で触りながら、頭の中で構造を組み立てていくという方が学習しやすいと思います。 2、ボタンなど本体構造 (1)良いインストラクターは手を出さなくて口だけで分からせられる!  言葉で教える時には、一貫して教えた方が混乱は少なくてすみます。  特に初心者の場合は、ちょっと表現を変えただけでも、別物だと解釈してしまうことがあります。  「ホームボタン」や「ボリュームボタン」のように押し込むことができるものは、「ボタン」として統一します。「スイッチ」は、スライドできるものとして統一します。  このようにインストラクターの方でルールを作っておくと、言い間違えもありません。  また、「電源ボタン」も「スリープボタン」と言い換えてしまうと、初心者の場合は戸惑うと思いますので、「電源ボタン」とした方がいいと思います。(正式名称は、電源/スリープ解除ボタン)  ボタン等の場所を特定していくための説明では、こちら側が一方的に伝えないということが重要です。 本体の上下左右がきちんと認識できるようになっているという前提で、「前面の下の方を触ってみて下さい。  直径1cmくらいの丸い凹みがありますかね」と伝え、ホームボタンを見つけてもらうことをやってもらいます。  そして、本人から「これかな」と見つけた時に、確認をしていきます。  ホームボタンの次に、「左の側面を下から上に撫でていって下さい」「なにか突起があったら教えて下さい」「突起は、幾つありますか」「その突起は、押せそうですか」「その突起は、音量を調節するボタンです」というように説明を進めていきます。  このように、自分の知覚で見つけたものに対して、定義付けしていくという方法があります。  このように、経験してもらい、そこに説明を加えていくということで進めていくと定着しやすいし、次回からは自分で発見しやすくなります。  視覚に障害のある人が、このように触りながら理解していくということが、視覚に障害のない人には理解しづらい面があります。  しかし、このような進め方は、説明を受けている人の理解を超えて、早く進んだりすることがなくなるので、良い方法だと思います。 @基本構造について  まずは、どんなボタンがどこにあるのか等、本体の基本構造を教えていきます。  教えて行く上では、触って操作しながら教えていきます。  最初は、カバーなどは付けない状態で進めた方がいいと思います。  どのように教えていくのかは、あれこれと教えてもいいのですが、触って観察する触察で理解してもらうようにします。  触察で理解させる極意は、「能動的に触察してもらう」「連続的に触察してもらう」の2つがあります。  対象者にiPhoneを持ってもらう時に、どのように渡しますか?  おそらく親切に、持てば操作できる向きにして渡すのではないでしょうか?  そこはあえて上下さかさまに渡したり、裏向きに渡したりすることで、まずは触ってもらいます。そして、「どっちが画面だと思いますか?」と聞きます。  対象者の分かったという返答に対しては、「どうして表と分かったのですか?」と質問し、何が情報になって表と判断しているかを確認します。例えば、「ホームボタンがあるから」と答えた場合は、この対象者はiPhoneについてかなり分かっている対象者と言えます。  初めてiPhoneを触る対象者は、ホームボタンすら知りませんので、表の方を、「ツルツル」と言う人もいるでしょうし、「何か、つっかえる」という人もいると思います。また、裏の方を「すべすべ」と表現する人もいるだろうし、「冷たい」と言う人もいると思います。  このように感じ方というのは、人それぞれで違います。  ですから、その人がどのように感じているのかを、言葉にしてもらうことが重要です。例えば、「ツルツルとした面とヒャッとする面2つがあります」と言ったとしたら、この感じ方を利用します。  「机の上にあるiPhoneを手に持って下さい。持つ時に、ひんやりした側を手の平にくっつくように持ってみましょう」というようにその人の感じた感覚をそのまま利用して助言するとスムーズに進みます。  「外言化」というのですが、一度自分が理解していることを言葉にして、意識化させるために重要な手続きです。  質問することは、対象者だけでなく、インストラクターにとっても診断において有効な情報を得ることができます。例えば、「この人は、こういう情報をこんな感じ方をする」「こっちがつるつると感じる」という情報から対象者の素地(レディネス)を確認することができます。そして、そのことを指導にフィードバックしていくことができます。 Aホームボタンについて  表がどちらか分かるようになったら、「表に2センチくらいのくぼみがありますが、分かりますか?」とホームボタンを探してもらう質問をします。その時にやりがちなのは、対象者の手をホームに持っていくことがあります。  これは、最初に触れました「能動的に触察してもらう」という原則から外れることになるのでやってはいけません。時間がなくてどうしようもない時は仕方がないですが、基本的には能動的に触ってもらうことが重要です。  画面を触ると「Voice Over」の機能でいろいろ音声を発することになりますので、触ってもらう時には電源を切った状態で触ってもらいます。  「ホームボタン」を見つけることができたら、実際に押してもらいます。  「ボタンを押す」といっても、いろいろな押し方がありますので、ただ「押して下さい」というのではなく、「『カチッカチッ』と押して下さい」とか、「『ぎゅっ』と押して下さい」というように、押し方を共有できるように擬音語などを使って説明していきます。ホームボタンを「ぎゅっ」と押すと、Siriが起動します。  「カチッ、カチッと押せるでしょう」というように、「押す」とどのような情報が返ってくるのか、どういう情報で「押す」という感覚を感じるのかを、言葉を添えて確認してもらいます。  また、それぞれのスイッチやボタンについて、どのように操作するのか、操作するとどのような手応えを感じられるのかを意識化してもらっておくことは重要なことです。  「ホームボタンを押して下さい」というと、押し込めるボタンだという意識がない人がいます。  iPhoneの画面も押すと引っ込むわけではありません。「押す」というのは、「トン」とすることだと思っている人もいます。  そこに齟齬があると、インストラクターが伝えたいことと対象者が理解することの間で行き違いが生じてしまいます。これは、後々、指導効率が悪くなります。ですから、「ホームボタンを短めに押してみて下さい。カチッ、カチッと押せるでしょう」というように指導します。  本体の基本構造を理解した上で、上下左右を揃えていくことが大切になりますので、「ホームボタンが手前になるように持ちましょう」ということを確認していきます。  しかし、先天性の視覚に障害のあるお子さんの中には「手前」というような空間的な言葉がストレートに伝わらない方もいます。  インストラクターが伝えて、対象者が考え込む場面が見られたら、「おへその方にくるようにして持ってください」というように言い換えて様子を見ます。  この時注意をしなければならないことは、自尊心を傷つけないように様子を見ながら言い換えていくことが大切です。 Bボリュームボタンについて  「ボリュームボタン」を探してもらう時にはどのように伝えるといいでしょうか?  ホームボタンが手前になるように持ってもらった上で、「左側面を触ってみて下さい」と伝えます。  形はiPhoneの機種により違いますので、使っている機種のボタンの形により、例えば「丸いボタンがありますか」とボタンの形を伝えて探してもらいます。  対象者が、左側面のボタンを見つけ「ありました」と答えたとします。  インストラクターは、「いくつありますか?」と尋ねます。  そうすることで、インストラクターが意図しているものが触れているか確認もできますし、対象者はボリュームボタンが2つあるということを知ることができます。  そこまで確認ができたら、「それはボリュームボタンで、上と下に付いていて、対になっています。押し込むことで、ボリュームの調整をします」と伝え、実際に押し込んでもらいます。 Cミュート(消音)スイッチについて  まず「ボリュームボタンの近くに形の違う突起物がありますが、分かりますか?」と尋ねます。  ミュートスイッチを見つけることができましたら、「それがミュートスイッチで、スライドすると消音することができます」と伝え、実際に操作してもらいます。  画面の前後に向けてスライドして、ON,OFFにしますが、スライドする方向をきちんと伝える必要があります。  ボタンが細かいので、注意深く触ると、隙間があるので、前後にスライドさせればと良いことがわかりますが、初めは難しいと思います。  「ボタンです、スライドさせて下さい」とだけ伝えると、前後でなく上下にスライドさせようとすることにもなります。このようにボタンの操作の仕方を共有できるように工夫が必要です。  ミュートスイッチは、なかなか上手くスライドすることができない場合もあります。  その時には、「指先で動かしてみてください」「カチッ、カチッと動きますよね」などと付け加えるといいと思います。 D電源ボタンについて  まず「右側面を触ってみて下さい。上の方に細長い突起物がありますが、分かりますか?」と尋ねます。  対象者が電源ボタンを見つけることができましたら、「それが電源ボタンで、押し込むことでiPhoneの電源をオン、オフします」と伝え、同じように実際に操作してもらいます。 E起動について  起動するまでの手続きを決めます。  ここでいう「起動」とは、「スリープ状態からホーム画面を表示するまで」ということとします。  まず、1つ目は操作方法を決めます。操作するとリアクションがあります。  iPhoneのリアクションの聞きどころを伝え、リアクションの判断のしどころを伝えます。このように、幾つかのユニットが積み重なって、タスクができます。  ここでのタスクは、「起動する」です。  例えば、「ホームボタンを押します。そうすると数字を読みます。数字は時刻で、時刻を読んだら成功です。」というように進めていきます。  ここでは、「起動」までの手続きを説明しました。  これができるようになれば、他の操作方法を伝える方法も企画できるようになります。 F確認について  一通り教えた後、きちんとできるか確認をします。  対象者にiPhoneを机の上に置いてもらい、「私が、iPhoneの向きなどを変えますので、iPhoneを正しく持ってホームボタンを押して見て下さい」ということを繰り返し確認します。  ここが、見えている人と見えていない人の決定的な違いだと思います。  教えたから分かっているなではなくて、分かっていることを確認することが重要です。  このような進め方をすれば、自然に能動的、連続的に触ってもらうことができます。  時間がない場合には、対象者の手を持って教えることも必要になってきますが、できるだけ能動的、連続的に触ってもらいながら進めていきます。 3、ジェスチャー  ボタンやなどの基本構造、画面のイメージについて対象者が習得できたら、次にジェスチャーの練習を行います。 何故ジェスチャーからなのかと言いますと、iPhoneを起動してからジェスチャーが必要になりますし、   ジェスチャーの練習をすることで、対象者の運動特性などを知ることができるからです。 (1)「Voice Over」の操作練習でレディネスを捉えよ!  「設定」というアプリを起動して、「一般」という項目の中に「アクセシビリティ」がありますので、これを開きます。  そうすると「視覚サポート」の中に「Voice Over」がありますので、「Voice Over」を起動します。 「Voice Over」が起動すると、「Voice Overの操作練習」が表示されますので、これを開きます。  使用者が何らかのアクションをすると、iPhoneがどういうイベントが起こったかを理解してフィードバックしてくれます。  これを利用して、「Voice Over」の練習を行なっていきます。  まず対象者に画面を触ってもらいます。  「あれ、これ触ったことになるのですね」と、慣れてない人は、いろいろ触ってしまいます。まずはこの感覚を分かってもらいます。  次は、「ダブルタップ」です。「トントンとします」と伝え、実際にやってもらいます。  iPhoneからは、「タッチ、指の下にある項目を選択します」と音声で返ってきたとします。  インストラクターは、「あれ、トントンと『ダブルタップ』したのに、『タッチ』と言いますね。間隔が長いのかもしれませんね。トントンと短くしましょう。」と状況に応じて助言をしながら進めていきます。  また、「タッチ」を押し込んで行なっていたり、「フリック」など必要以上に力が入っていたりする場合などは、「ちょっと手を触ってもいいですか?」と、対象者の手の甲を画面に見立てて、「これが、『タッチ』ですよ、これが『ダブルタップ』ですよ」と実演しながら練習するのも効果的です。  見えている方は、肘とか手首とか指の格好とか速さとかが自然と視覚から入ってきますが、そのような情報は目が見えないと得られないので、視覚に障害のある人には分かりません。  インストラクターは、対象者が触覚の中で触ったものだけが入力されるということをしっかり意識しておく必要があります。  「Voice Overの操作練習」で重要なのは、自分のやっている操作をiPhoneがどうのように理解しているかが分かることです。  自分は、「ダブルタップ」しているのにiPhoneは「タッチ」としかフィードバックしない場合には、自分の操作を修正する必要があることが分かります。  対象者には「10回やって、連続して10回成功すること」を目標にしてもらいます。 (2)「ダブルタップ」の前に「タッチ」と言わせてしまう場合は、「スプリットタップ」から!  もし、5分くらいやって上手くいかない場合には、別の方法を検討します。  例えば、「ダブルタップ」が上手くいかない場合には、「フリック」も難しいと思われます。  そこで、「フリック」も必要がない「スプリットタップ」に切り替えることを考えます。  ここで重要なことは、最初から「ダブルタップ」と「スプリットタップ」を二つ同時には教えないことです。  二つ同時に教えた場合に、「ここでは『ダブルタップ』ではいけない、ここでは『スプリットタップ』でないといけない」というような誤った概念化をされてしまう場合があるからです。  ですので、この対象者には「スプリットタップ」だなと思ったら、「スプリットタップ」だけで進め、熟練してきたら「『ダブルタップ』でも同じような操作ができますよ」と「ダブルタップ」の練習をします。   このようにすれば、誤学習をすることは少なくなります。  画面上で指を動かしていき、立ち上げたい項目が読み上げられたら、その指は動かさないで、別の指で画面のどこでも良いので「トン」と1回「タッチ」します。そうすると、選択した項目が起動します。これが「スプリットタップ」です。この操作は片手でやる必要はありません。両手の指を使って操作しても構いません。  「スプリットタップ」の操作については、「中指」を探索する指として使って「人差し指でトンとする」と伝えます。  「人指し指」を探索する指として使ったとすると、画面の左側を探す時は問題ないのですが、右側を探す時、場所によっては中指が使えないことがあります。  中指を探索する指として使っている場合には、右側を探す時には「人差し指でトン」、左側を探す時には、人差し指ははみ出すので「薬指でトン」という操作で決定するようにします。  あくまでも一つの方法なので、人それぞれで自分のやりやすい方法があればそれでいいと思います。 (3)「ダブルタップ」ができるようになったら、次は「フリック」を  「ダブルタップ」を10回やって、10回成功する人は、「フリック」に進みます。  「フリック」については、「『フリック』は、一本指で画面を払います」と伝えます。  対象者が中途失明の人であれば、「画面の表面にホコリがついていますので、ホコリを画面の外に出すようにはらいます」「指の先でなく、指の腹ではらうようにします」のように伝えると理解しやすいと思います。  また、対象者の利き手でない甲を画面に見立てて、利き手でインストラクターの「フリック」する手を触ってもらい、インストラクターの操作の動きを感じてもらうのも有効だと思います。  画面との距離感が取りにくく、上手く出来ない場合は、親指を「ホームボタン」の隣くらいにのせて「フリック」するようなことを試してみます。  「フリック」を10回やって、10回成功するようになったら、実際の操作で同じ操作をし続けることはないので、インストラクターが「右フリック」「ダブルタップ」「左フリック」「ダブルタップ」というようにランダムに言って、操作できるかを確認します。  次の項目に送る時は、右フリック、前の項目に戻す時は、左フリック、選択されている項目を実行する時は、ダブルタップです。この3つの操作ができれば、とりあえず操作は何とかなります。  どこにカーソルがあるかということが重要で、視覚に障害のある人にとっては、左右のフリックをした時に、何を喋っているのかということを聞き取る必要があります。  「フリック」は画面を見ることができない人にとっては、画面上の要素を取りこぼさない点で重要な操作です。  しかし「スプリットタップ」も効率を上げる点で重要です。  キーボード入力をする場合は、「スプリットタップ」で行ないます。どちらが先かはさほど重要ではないと思われます。対象者の再現性の高い方から進めていきます。 4、基本設定 (1)「Voice Over」は必ずショートカットに設定を!  「アクセシビリティの設定」の「ショートカット」では、「Voice Over」だけにチェックしておきます。二つ以上チェックしていると、「ショートカット」を起動した時の動作を選択しなければいけなくなります。   「Voice Over」を「ショートカット」で設定すると、「カチ、カチ、カチ」とホームボタンを3回押すだけで、起動したり止めたりすることができます。  見えている方の場合、設定を変えたい場合などに「Voice Over」を止めないと何もできないこともあります。また、「Voice Over」が時々不具合を起こすこともあります。このような時に、簡単に「Voice Over」を停止できるということは重要なことです。  ある程度慣れてきたら、「ショートカット」ではなく、「Voice Over」のオン、オフの操作について練習するということをやっておくといいでしょう。 「ホームボタン」を「カチ、カチ、カチ」と押す操作が難しい場合もあります。その場合には、「アクセシビリティ」の中の「ホームボタン」の中に、「クリックの間隔」があります。ここで、対象者の様子によって「デフォルト」「遅く」「最も遅く」を設定することができます。   (2)ローターに読み上げ速度を追加しよう!  「アクセシビリティ」の中の「Voice Over」の中に、「ローター」という設定があります。  この「ローター」に、「読み上げ速度」を設定しておくと便利です。 「Voice Over」が読み上げる速度は、慣れてくると一定でいいのですが、慣れるまでは「ちょっと速くしたい」「ちょっと遅くしたい」と調整したい時があります。  そんな時に「ローター」で「読み上げ速度」を選択し、「上フリック」で速く、「下フリック」で遅く することができます。  事前に設定しておくと、対象者が読み上げ速度を遅くして欲しい時に、インストラクターの方で調整が簡単にでき、指導が途切れることなく進めることができます (3)「3DTouch」は、オフに  「アクセシビリティ」の中にある「3DTouch」は、「オフ」にしておくと、「VoiceOver」での操作がしやすくなります。 5、画面構成を伝える指導法  視覚に障害のある人の中でも音声ユーザーにおける、Windowsパソコンとタブレットでの操作性の違いというのは、Windowsパソコンは、あまり画面の構成が頭になくてもまずまず使えたということです。  例えば、メールソフトの画面構成は、左側に縦長のフレームが1つあって、右側半分が上下に分かれている画面構成で使っている人が大体です。 左側の縦長部分の中にはメールボックスの一覧があって、ゴミ箱や受信箱等がリスト上に並んでいます。 右側は上下に分かれていて、上半分に左側のメールボックスの中から選択された内容のメールがリスト状に並んでいて、下半分にリストから選択されたメールの内容が表示されるように使っている人が多いのではないでしょうか。  パソコンを仕事でかなり使っている数人の音声ユーザーの方から話を聞いてみると、メールの画面構成についてのイメージがみんな違っていました。ある人は3列に並んでいると思っていたり、ある人は3行に並んでいると思っていたり、またある人はそんなこと考えたこともないなど様々でした。 それでも皆さんそこそこにメールは使えます。  しかし、タブレットの場合は若干違います。「フリック」操作だけをしている分には、そんなに画面構成のイメージはなくていいかもしれませんが、効率的に操作しようとすると画面構成のイメージはあった方がいいです。このあたりが、Windowsパソコンを使っている時と若干違います。  タブレットの場合は、いかに実際の画面に表示されているものと音声ユーザーの心的イメージ(表象)が合うように伝えられるかがひとつ大きなところです。 (1)行列の言葉が理解できそうであれば、それを利用しよう!  まずは頭の中にフレームを作り操作してもらうことが重要だと思います。  例えば、対象者がオセロや将棋などの経験があり、行と列の概念を持っている方であれば、「iPhoneのホーム画面は5行あり、その下にホーム画面の位置を表示するものがあって、一番下にはドックが1行あります」「また、縦には4列あります」というように説明します。  このことを頭に入れておいてもらった上で、画面左上を触ってもらいます。  左上にあるアイコンを読み上げたら、右に1つ指をずらしてもらいます。2列目のアイコンを読み上げたら、また右に1つ指をずらしてもらいます。  3列目のアイコンを読み上げたら、同じように右に1つ指をずらしてもらいます。4列目のアイコンまで読み上げたら、ここまでが1行であることを伝えます。  そうすると指を下に1つづらして、2行目に移ります。今度は、左に1つ指をずらしてもらい、アイコンを読み上げたらまた左に1つ指をずらしてもらいます。 2行1列目に指がくるまでこの動作を繰り返します。  次に、2行1列目のアイコンを読み上げたら、その上の位置にあるアイコンは何かを確認します。  上の位置にあるアイコンを対象者が正しく答えることができれば、iPhoneのホーム画面の構成がその方の頭の中に大体できていると思います。  可能であれば、こちらが教えるよりも自分の指で触って確認してもらうのがいいと思います。  最初は、この2行を行ったり来たりして、2行4列分のイメージをしっかり作ってもらうことが重要です。  画面一番の上の「アンテナ」「キャリア名」「時刻」等も指で触れると読み上げます。  読み上げた場合には、「指が上すぎですね」ぐらいに留めて、最初はアイコンの配置確認だけに絞って教えた方がいいように思います。 まずは、大枠を理解してもらう方が大事です。  そして、ある程度画面構成が理解できた段階で「バッテリー残量も知ることができます」等、後で追加して教えていくといいでしょう。  現在表示されているアイコン表示画面が何ページ目なのかを知ることができるインジケーターアイコン(ページナビゲーション)は、インジケーターアイコンが選択された状態で指を上下にスワイプすることで、ページを移動することができます。  アイコン表示画面のどのページが表示されていても常に変わらず表示される画面一番下にあるスペース、「ドック」には、よく使うアプリを入れておきます。  インジケーターアイコン(ページナビゲーション)、ドックについても、実際に指で触ってもらい、質問も交えながら、音声情報を元に理解を進めてもらいます。  先天性の視覚に障害のある人は、この行、列の概念を作るのが得意でない人がいます。また、指をまっすぐ横に動かすことが難しい場合もあります。1本指だけを画面に触れて動かしているとガイドになるものがありませんので、もう一方の手でiPhoneを持って、持った方の手の指に、操作する方の手の指で軽く触れながら操作すると、自分の指がどこにあるのかフィードバックできるようになります。また、操作する手の中指や薬指をiPhoneの縁に軽くつけておくという方法もあります。  机の上にiPhoneを置いて1本指で操作している時などは、このような提案をしていくことが必要です。慣れてくると、片手でiPhoneを持って、親指で操作することもできるようになりますが、ホーム画面の構成を理解する最初の場面では、丁寧に進めていくことが大切です。  前にも述べましたが、こちらが教えるというよりも探索的に学んでいくことが大切です。  インストラクターが言った通りに操作できるユーザーを養成したいのではありません。  今、すぐには難しいでしょうが、先々やりたいことに対してどういう風に操作しなければいけないか、ということを仮説、検証しながら自分の操作を企画できるユーザーを養成していくことが目的です。  そう考えると、こちらが情報を与え続けるというのではなく、質問を混ぜながら進めていくことが必要です。   特に、音声ユーザーの方の場合、「あと3つ先に使いたいアプリがあるので、そこをダブルタップしたらいい」というイメージ、操作ができるようになるまでにはかなり年季が必要です。 加えて、新しいアプリの場合は全く無の状態になり、かなりの労力を要します。  目が見えていれば、新しいアプリでも、「画面の下にOKボタンがあるな」ということが視覚的に分かりますが、画面が 見えない音声ユーザーの場合はそれができません。  そこで重要なのは、飽くなき探究心で恐れずに操作を企画し、そして実行できるということです。  「間違っても大丈夫」という気持ちを持ち、自分で今の状況を把握しながら、次にどうすればいいかのイメージができる、対象者がこれらを自然にできてしまう指導ができるといいでしょう。  ここが、見えている人に教えるところとの教え方の大きな違いかもしれません。  ホーム画面の構成を理解していく手がかりとして、ホーム画面を点図にしたものを使うと有効です。音声と点図で状況を容易に判断することができ、ホーム画面の構成を理解することができます。また、点字を活用している人であれば、キーボードの点図を作成し、理解の手助けとして活用するのも有効です。 (2)画面の様子がつかめたら  対象者が画面の様子をある程度つかめたようであれば、「左フリック」の動作を続けてやってもらいます。  何度か「左フリック」をすると、同じアイコンの名前と木魚のような音が、「左フリック」の度にするようになります。  そうすると、「それ以上前には、アイコンがないということです」「そこが1行1列目で、この画面の起点になります」ということを伝えます。  iPhoneが起動した時のフォーカスは、必ず1行目1列目になっていますので、1行目1列目を意識するようにします。  アイコンが画面に5つ以上になると2行以上になります。  そのような状態の時に、「右フリック」で1行目から2行目に移る時と、「左フリック」で2行目から1行目に戻る時に「ポコン」とそれぞれイントネーションを変えた音がしています。  これは、行移りを知らせるサウンドエフェクト(SE)と言います。しかし、音の違いが聞き取りづらいので、分からなければあまりこだわる必要はありません。  次に「右フリック」を続けてしてもらい、「全◯ページ中◯ページ目調整可能」という項目があるということを認識してもらいます。  さらに、「右フリック」をしてもらい「全◯ページ中◯ページ目調整可能」の項目の下にもアイコンがあるということを伝えます。  「全◯ページ中◯ページ目調整可能」の項目を境に、上の世界と下の世界があり、下の世界をドック(DOCK)と呼び、ドックにはアイコンを4つ入れることができるということも伝えます。  ドックに入ってさらに「右フリック」をしていくと、また木魚のような音が「右フリック」をする度にするようになります。この音で、その先にはもう項目(アイコン)がないということが分かります。 以上のように、視覚に障害のある方の場合、iPhoneの操作を音で認識しながら進めないといけません。  インストラクターは、このことを十分意識し、対象者が音でフィードバックできるように進めていく必要があります。 (3)アプリの起動と終了を  アプリを起動して、終了する練習をします。  例えば、「Safari(サファリ)」のところまで、「左右フリック」を使いながら移動していきます。  「サファリ、使用可能なアクション」というところにきたら、「ダブルタップ」してもらいます。  「サファリが今起動していますよ」と伝えた上で、「今度は、サファリを終了しますので、ホームボタンを押して下さい」「今、ポンといって終了しました」というように進めていきます。  「スプリットタップ」の場合は、中指でホーム画面をなぞってもらいます。サファリの位置にきたら、人差し指か薬指で「トン」としてもらいます。同じように「サファリが今起動してますよ」と伝えた上で、「今度は、サファリを終了しますので、ホームボタンを押して下さい」というように進めていきます。  画面をなぞっている時に、慣れていないと、指が画面のどのあたりにあるのかということが感じ難いです。そのような場合には、親指をiPhoneの縁に添えて操作すると、指がどのあたりにあるのかが分かりやすくなります。 (4)スリープ状態について  「電源ボタン」を「カッチ」と押してもらい、スリープ状態にしてもらいます。  次に「ホームボタン」を「カッチ」と押してもらいます。そうすると時計を読み上げ、しばらくするとサウンドエフェクトがしてスリープ状態になります。  ホームボタンを押すと時計を読み、何もしないで5,6秒経つとスリープ状態になることを何度か経験してもらった方がいいと思います。  目が見えていればそこまでする必要はないのですが、視覚に障害のある人の場合は、何度も繰り返し慣れていく必要があります。  ロック画面を解除する場合は「右フリック」を2回します。ここで、「『右フリック』を2回します」としか教えない場合、ロック画面の他の所にいってしまうと状況が分からなくなる場合があります。  まずは、ロック解除画面にはどのような項目があるのか、操作をしてもらいながら伝えます。  そうすることで、「時計」「カレンダー」「ロック解除」「ナビゲーション」で、項目の数と順序がわかるようになりますので、自分の今いる位置が分かり「ナビゲーション」であれば一つ戻ればいいということが判断できます。  個人情報のことがありますから、ロック解除のためのコードは入れておいた方がいいと思います。  指紋認証を最初にしておけば便利だと思いますが、完全に電源を切った場合には、最初にコードを入れないといけません。コードで解除することも、自分できちんとできるようにしておきます。  ロックを解除すると、1行1列目のアイコンにフォーカスがあり、そこにあるアイコンを読み上げますので、きちんとロック画面が解除されたことが分かります。 6、ジェスチャーの理解を促す指導法 (1)パソコンを使用している人には  パソコンを使用している人には、「右フリック」がtabキー、左フリックがshift+tabキー、一本指のダブルタップがenterキーというように関連付けて伝えると、その操作の機能が理解しやすいです。 (2)様子を見ながらジェスチャーを増やしていく!  最初から、1本指から5本指までの操作を教えていくのではなく、フリック操作でいくならば「左右フリック」「一本指の『ダブルタップ』」「二本指の『ダブルタップ』」をまずは教えていきます。これらの操作ができるようになっていれば、大概の操作はできます。  そうすると段々「ホームページを読んでいても、一つ一つ送るのが大変だな」などと不便さを感じるようになります。この不便を感じながら使ってもらう時間はとても大事です。  すると対象者本人から「どうにかならないのか」というニーズが出てきます。  本人のニーズもないのに、いろいろ伝えても定着はしません。  本人の求めが出てきてから、次のジェスチャーを入れていくことが一番望ましい形になります。 (3)電話を受ける、掛ける  ジェスチャーの練習をここまでやったら、次は電話を受ける、掛けることをします。  電話を受けるには、「二本指『ダブルタップ』」をします。  電話を掛けるほうは、電話番号を入力して掛ける方法と、「連絡先」に予め登録しておいて、「Siri」を利用して掛ける方法があります。  「連絡先」に登録するに際には、一人に一つの電話番号だけを登録するようにします。  その理由は、「Siri」を使って電話を掛けると、電話番号が二つ以上登録しておくと、どちらかを選ばないといけません。  「Siri」を使って一度で電話を掛けるために、最初は一つの電話番号だけを登録しておくといいです。また、同じ名前の場合は、電話を掛けるときに選ばなくて済むように、登録する時に工夫しておきましょう。   。 『voice over』を使った文字入力の指導法   1、様々な文字入力のやり方 (1)音声入力も優秀です!  iPhoneを生活の中で使うということを意識すると、初心者の場合「Siri」を使いこなすのがいいです。メールやメッセージを送ったり、電話をかけたりすることも、画面を操作して行うよりも、「Siri 」で行なった方がやさしくできます。「Siri」に慣れてもらうために、リマインダーやアラーム、天気や気温を調べたりしてみるのがいいでしょう。  携帯電話からiPhoneに乗り換えた人が、最初に大変だなと感じることがあります。特に、文字を入力しようとした時など「iPhoneにしたらこれができなくなるのか」と感じたりします。  ですから、「Siri」を使い、できることを増やし「便利だな」と感じるように進めていきます。  「Siri」は、街中でやると目立つので嫌だという人もいますが、電話を掛けるポジションでやれば目立ちにくいです。メールを送る時なども、そのようにして操作すれば聞き取りが悪いということも減ります。  メールやメッセージを送る時、最初に心配することは、文字がきちんと変換されているかというところです。  「Siri」は高い精度で漢字変換をしますし、「改行」「まる」と言えばきちんと行なってくれます。それでも心配でしょうから親しい人に送ってみて、フィードバックしてもらうといいでしょう。  また、「設定」アプリの「メール」の「署名」の所に、「iPhone(Siri)から送信」と入れておくと、誤変換があっても音声認識なのでこうなっているのだと相手に伝わります。 (2)標準、タッチ、ダイレクトタッチ入力モード  iPhoneの「オンスクリーンキーボード」での文字入力には、「標準入力モード」「タッチ入力モード」「ダイレクトタッチ」の3つがあります。「ローター」の「入力モード」で「上下フリック」して、いずれかを選択をします。   @標準入力モード(両手が基本)  「左右フリック」してキーボードのキーを選択してから、「ダブルタップ」して文字を入力します。または、指をキーボードの中で動かしてキーを選択し、「スプリットタップ」します。  キーを選択すると「Voice Over」からキーが読み上げられ、文字を入力する時にもう一度読み上げられます。「スプリットタップ」でやると「ダブルタップ」でやるよりも速く入力ができます。  通常両手で操作する人や、「スプリットタップ」や「ダブルタップ」が安定している人に向いています。  まずは、キーボードを触ってもらい配置を把握してもらいます。入力は、文節単位で確定していった方がいいです。  長い文章にした方が、漢字のヒット率が上がったり、変換する回数が少なくていいかもしれませんが、 文章中の途中の漢字を変換する場合に大変ですので、単文節で確実に決めていく方がいいでしょう。  また、視覚に障害のある人の場合は、気づかないこともありますので、予測変換の機能をオフにしておいた方がいい場合があります。 Aタッチ入力モード(片手で可能)  キーボードのキーに「タッチ」して選択し、指を離して文字を入力します。間違ったキーを「タッチ」した場合は、指を離さないで使用したいキーに指をスライドさせます。  キーを「タッチ」するとキーの文字が読み上げられます。入力したい文字のところで、指を離すと入力されます。このタッチ入力モードでは、一つだけ注意が必要です。  「改行」や変換する漢字を決定する場合は、「ダブルタップ」しないといけませんので、慣れるのに、少し時間が必要な人がいるかもしれません。 B標準入力モード、タッチ入力モードでの文章の修正方法  入力した文章を修正していく方法を練習します。  ダイレクト操作で、修正する文章を選択します。  選択できましたら、「トントン」と「ダブルタップ」します。  すると「先頭に挿入ポイント」、「末尾に挿入ポイント」とカーソルの位置を知らせてきます。  そこで「ローター」で、「文字」を選択します。  「下フリック」すると一文字ずつ読みながら次に進みます。  また、「上フリック」すると一文字ずつ読みながら戻ります。  修正したい文字の前から「下フリック」していき、修正したい文字を読んだら「削除キー」で削除できます。  しかし、修正したい文字の後から「上フリック」をしていき、修正したい文字を読んで「削除キー」を選択すると修正したい文字の前の文字が削除されてしまいます。  このように文字の編集の際、カーソルの位置関係を理解することも重要です。  最初はいろいろな方法を教えるよりも「先頭から送っていき、読んだ文字を消す」というように操作を統一した方が混乱をしなくて良いでしょう。  行き過ぎた場合には、修正したい文字の何文字か前まで戻って、そこから「下フリック」で送っていき削除します。  パソコンを使用している対象者であれば、「iPhoneの『削除キー』は、パソコンの『Back spaceキー』にあたります」と伝えると分かりやすいかもしれません。 Cダイレクトタッチ入力モード(片手で可能)  このモードは、晴眼者がオンスクリーンキーボードで入力、修正するのとほぼ同じ操作で行ないます。 2、文字入力の指導法  メモアプリを使って、標準入力モード、スプリットタップでの文字入力練習をします。  文字入力の練習に入る前に、スプリットタップについてとメモアプリの起動の確認をします。メモアプリの右下角に新規作成ボタンがありますので、そこから新規メモを開きます。  この時、どこからどこまでが画面なのかを確認しておく必要があります。  右下角にメンディングテープを貼っておくと操作が安定する場合があります。 (1) キーボードの配置確認  キーボードについて伝えるにはどのようにしていけばいいでしょうか。  携帯電話や電卓、電話のキーボードの配列を知っていれば、「携帯電話の配列と一緒」「電話や電卓のように並んでいる」と伝えるとイメージする上で効果的です。  また、「キーボードは4行で5列あります」「オセロとか将棋のようにマス目になっています」というように枠組みを伝えていきます。その上で、「文字を入力する場所は、1行目の2、3、4列目、2行目の2、3,4列目、3行目の2、3、4列目、4行目の2、3、4列目にあります」というように説明していきます。  または、「2列目から4列目の1行目から4行目のマス目が、文字を入力する場所です」というように伝えます。そして、「それ以外の1列目と5列目は、空白や削除、改行や決定などをする場所になっています」と伝えていきます。  このように文字を入力する場所とそうでない場所が分かれていることを伝えるために別々に説明します。  説明する上では注意しておくことがあります。  それは、説明の中で使用する言葉を同じにするという ことです。  例えば、ある時は「削除するボタン」、ある時は「バックスペース」というように、同じボタンの呼び方を変えてしまうと「あれ、もう一つボタンがあるのかな」と混乱させることになります。  画面が見えている人であれば、理解できるかもしれませんが、画面が見えない人は、言葉からの情報が全てです。ですから、使う言葉を同じにすることがポイントになります。  ただし、状況によって機能が変わるボタンもあります。例えば、5列目の3、4行目はくっついて縦長のボタンになっていて、状況により「改行ボタン」または「決定ボタン」に機能が変わります。このような場合は、状況に応じて、その機能を伝えるようにします。  このように説明に使う用語にも計画性が必要です。 画面イメージの説明が終わったら、どれくらい伝わっているのかを必ず確認します。  それぞれのボタンを音声でどう読むのか、どのようなボタンがどう配列されているか、一本指でなぞりながら確認していきます。  ボタンの名前が変わるといけないので、予め「濁点のボタン」「句読点のボタン」というように決めておきます。  この時に、キーボードが描かれている点図があれば使います。  点字が読めなくても、位置関係を把握するのに有効だと思います。点図を使いながら「ここが文字のキーのあるエリア」「ここが機能キーのあるエリア」というように説明していきます。また、「『あ』の下に『た』があって、さらにその下に『ま』があります」というのを感覚的につかんでもらいます。  また、一列目と2列目の間や4列目と5列目の間にネールテープ(1mm)を貼ったり、触覚的な手がかりとして、キーボードの「な」の所、2行目、3列目にドットシールを貼ったり、キーボードの一つひとつにドットシールを貼ったりします。 そうすることで、左上の角から探すよりも、効率的に探すことができます。  操作に集中しているともう一方の指が画面に入ってしまい、誤操作する場合があります。  この場合は、メンディングテープを貼り、ここからは入ってはいけないという手がかりにします。  キーボードの上の部分に、漢字を選択する部分がありますが、ここにメンディングテープを貼っておくと、「漢字が出てきますから、指を上げて下さい」というように、境界の目安ができることになります。  (2)文字入力操作の指導を行なう上での設定  日本語入力キーボードは、事前に設定しておかないと文字入力画面で出てきません。  「設定」の「一般」メニューの「キーボード」の項目で設定しておく必要があります。  ただし、「設定」の中にある「アクセシビリティ」メニューの中にも「キーボード」という設定項目があります。それぞれの「キーボード」の設定内容をきちんと理解しておく必要があります。  スプリットタップで入力した時に、次の文字が表示されないことがあります。(例 かかかかと入力される)  この時には、「設定」の「一般」の中にある「キーボード」に「フリックのみ」があるので、「オフ」にします。 (3)「あかさたなはまやらわ」入力練習  キーボードの配列がある程度把握できましたら、実際に「あかさたなはまやらわ」をスプリットタップで入力していきます。                    入力にかかった時間を計り、受講生に伝えることも必要に応じて行なって下さい。  「わ」まで入力したら「確定」ボタンを押します。  「確定」ボタンを押すと、打ち込んだ文字を最初から読み上げてくれます。  また「削除」ボタンを押して一文字ずつ削除すると、Voice Overがその文字を読み上げてくれるので、入力した文字の確認ができます。入力後、「削除」ボタンを押して文字を削除しながら、思い通りに入力できたのかを確認します。  入力した文字を文字単位で確認するには、一本指の上下のフリックで確認できます。上にフリックすると前の文字に、下にフリックすると次の文字に移動します。  この練習を5回繰り返してもらいます。指導者は、「あかさたなは    まやらわ」の順で、最初から何文字目まで正確に入力できたか、「スタート」と合図をしてから「終わりました」というところまでの時間を測り、正確さ、時間を記録しておきます。  「あかさたなはまやらわ」がある程度できるようになったら、「いきしちに・・・」「うくすつぬ・・・」「おこそとの・・・」の練習をします。  このような練習を通して、「キーボード(文字)の配列に慣れる」「スプリットタップに慣れる」「ダブルタップでの文字送りに慣れる」ことを目標にします。 (4)「新聞記者」「東京特許許可局」の入力練習  「新聞記者」と入力出来るようにしましょう。「新聞記者」と入力しようと思ったら、「しんぶんきしゃ」と入れて、漢字変換しようと考えがちです。  教育学の考え方ですが、人に教えるときには、1タスクずつ増やしていくことが基本です。  まずは、「ひらがなで『しんぶんきしゃ』と入力できる」ことを練習します。  拗音とか濁音が入ってきますので、違うタスクが加わります。これが、ひらがなで安定して入力できるのであれば、次の段階に進みます。次は、「『しんぶんきしゃ』と入力して、『次候補』ボタンを押して、用例読みをさせて、漢字を確定させる」という練習をします。  このように2段階で進めていくと良いと思います。  2つのタスクを同時に教えることは、場合によっては効率的ですが、今回のような技能を教える時には、あまり効率的ではありません。  また、変換する時は、「しんぶんきしゃ」で変換するよりも、「しんぶん」で変換、「きしゃ」で変換した方が良いでしょう。  漢字変換では、「次候補」ボタンを押して、用例読みをさせて確定させる方法もありますが、変換候補は上下フリックでも選択できます。上下フリックでの選択方法では、行きすぎたら戻ることができるので便利です。  文字入力については、キーボードの「な」の位置にシールを貼るだけで、操作性が上がりますので、必要に応じて試してもらうのも良いでしょう。 (5)キーボード切り替えの練習  数字を入力したり、アルファベットを入力したりするために、「キーボード切り替えボタン」の役割とその並びを確認します。確認が出来たら、数字だけ、アルファベットだけを入力する練習をします。上手く入力できるようになったら、「今日の日付」等を入力してもらいます。  前にも述べましたが、基本は1タスクずつ増やしていきます。 (6)文章の入力  入力していく文章を提示し、それに従い入力してもらいます。文書の提示としては、「点字図書」「DASIY図書」を利用しながら行ないます。変換は、文節毎に入力、変換していくようにします。  Voice Overを使った操作の練習  ◯課題1   ・safariを起動します   ・目的のホームページを検索し、開きます   ・ホームページの内容を一文字ずつ読んでいきます   ここでは、スプリットタップとローター以外は1本指のジェスチャーだけで操作するようにして下  さい。   目的のホームページを検索するためには、safariを起動して、「検索/アドレス入力」欄にキーワード  の文字入力が必要です。また、ホームページの内容を一文字ずつ読むためには、1本指で上下のフリ  ックが必要になります。   画面を見ることができる方は、最初は画面を見ながらでも構いませんが、ある程度できるようにな  ったら画面を見ないでやって下さい。  ◯課題2   ・safariを起動します   ・目的のホームページを検索し、開きます   ・先頭から全てを読み上げます   ・途中欲しい情報がある場所で止めます   ・見つかったら、開いて全文を読み上げます     ここでは、先頭から全てを読み上げさせるためには、2本指のジェスチャーを使います。  読み上げる中から、目的の情報がある場所を探します。   画面を見ないで情報を得ていくということは、読み上げられる文字情報を頭の中で整理し、イメー   ジを構築しながら読んでいかないと、情報を得ることはできません。つまり、情報の取り方が、目で  画面を見ているのとは違っているということです。これは、大変重要なことなので、きちんと認識し  ておく必要があります。 ◯課題3 ・safariを起動します  ・目的のホームページを検索し、開   きます  ・「リーダー」を使って開きます  ・先頭から全体を読み上げます  ・ある程度読み上げたところで、読   み上げを止めます  ・そのページが何ページ目かを調べ     ます  ・そのページの先頭(リーダー)に   ジャンプします  ・リーダーを解除します  ホームページをsafariで開くと 「リーダーを使用できます」とVoice Overが読み上げます。「リーダー」というのは、アクセシブルなホームページの表示の仕方です。ただし「リーダー」が出てくるのはsafariだけで、他のchromeなどのブラウザではでてきません。また、「リーダー」が選択されているかどうかの判断は、Voice Overが「リーダー」のボタンが選択されている場合は「選択中のリーダーボタン」、選択していない場合は「リーダーボタン」と読み上げます。このような聞き所を教えていくことがインストラクターの重要な仕事の一つになります。  今いるページが何ページ目かを調べるためには、3本指のジェスチャーを使います。(3本指でシングルタップ)  また、リーダーを解除したい時には、ページの先頭に戻さないといけません。その時には、4本指のジェスチャーを使います。(4本指で画面の上半分の部分をシングルタップ) ◯課題1〜3を通して、いくつかのステップに分け、それぞれの自立度を評価していきます。  例えば、  ・safariの起動の仕方   ステップ1:左右フリック操作でカーソルを移動する   ステップ2:Safariの上で、カーソルを止める   ステップ3:一本指のダブルタップでSafariを立ち上げる  ・目的のホームページを検索   ステップ1:「アドレスバー」に移動して、文字入力できる状態にする   『「アドレスバー」に移動して、文字入力できる状態にする』には、次の3つの方法があります。    (方法1)画面の上の方から1本指で撫でていって、Voice Overが「アドレス」と読み上げると         ころまで下がってきて「アドレスバー」に行き、そこで一本指でダブルタップします。    (方法2)左右フリックで、Voice Overが「アドレス」と読み上げるところまで移動して「アド         レスバー」に行き、そこで一本指でダブルタップします    (方法3)画面上半分を4本指でシングルタップし、カーソルを一番先頭に戻して、必要に応じ           て左右フリックでVoice Overが「アドレス」と読み上げるところまで移動して「アド         レスバー」に行き、そこで一本指でダブルタップします   これらのやり方は、音声ユーザーにとって、ジェスチャーをすれば必ず同じ結果になるということで、ジェスチャーを習得しているのであれば有効な方法です。  ステップ2:「アドレスバー」に、キーワードを入力し、検索ボタンを押す   ・文字を間違って入力した時、入力した文字を確かめたい時は、「ローター」を「文字」に切り替え   て、上下フリックして入力した文字を確認することができます ステップ3:検索された一覧から、目的のホームページを選択する  「検索された一覧から、目的のホームページを選択する」には、次の2つの方法があります。  (方法1)表示された一覧から左右フリックで移動し、目的のホームページを見つけ、1本指でダブ       ルタップします。 (方法2)2本指でトリプルタップします。「項目セレクタ」という画面が出てきます。「項目セレク       タ」というのは、画面にある要素がリストになっています。 左右フリックをしていけば、       画面にあるものにたどり着くことができます。さらに、検索枠が、一番上にありますので、       カーソルが画面のどの位置にあっても、「項目セレクタ」を出せば、どこでも検索できる       ことになります。「項目セレクタ」は、「ホームボタン」で閉じます。  ジェスチャーも含めて、いろいろなやり方がありますが、「教えたがり症候群」にはならないということが重要です。先ずは、1本指での操作で、確実にできるということを目指します。  safariのアイコンの配置は、「Dock」の中や、1ページ目の左上など、操作しやすい場所に置いておきます。  あらかじめ教材に使いやすいホームページを探しておきます。「リーダー」を教えたいのに、「リーダー」表示が出ないホームページでは、時間も無駄になってしまいます。また、調べたページをショートカットでホーム画面に登録しておくという方法も良いと思います。 (7)点字の経験のみの音声ユーザーへの配慮  点字ユーザーで、パソコンを使用していて、ローマ字入力をしている人は、あまり意識しなくてもいいと思いますが、次のようなこともあることを知っておくと良いと思います。 @長音や助詞について  例えば「東京(とうきょう)」などの「う」を含む単語の場合、点字では「とーきょー」と表記されます。したがって、パソコンで墨字を書く場合、外来語以外では「ー」ではなく「う」を用いることを説明します。また、「私は」の「は」は、点字では「わ」と表記されます。墨字では助詞は、「わ」→「は」、「え」→「へ」を 用いることを説明します。 A促音、小さい“つ”について  点字ユーザーの中には「っ(ちいさい“つ”)」という概念が形成されていないケースもあるので、レディネスを確認しながら進めることが必要な場合があります。 B拗音、小さい“や行”」について  点字ユーザーの中には「ゃゅょ(ちいさい“や行”)」という概念が形成されていないケースもあるので、レディネスを確認しながら進めることが必要な場合があります。 「 VoiceOverを使ったカメラの操作の指導法  スマートフォンが世に出て、視覚に障害のある人の何が変わったかというと、「カメラ」が身近になったことです。  視覚が使えない、使いづらいという人の場合は、カメラを上手く使いこなすことができれば、自分の視覚の代わりをしてくれる可能性があります。  カメラを上手く使いこなすためには、カメラの操作に慣れる必要があります。  カメラで被写体を捉えるための手がかりを伝えていくためには、指導者が視覚を用いないで十分に試してみることが必要です。その中で、再現性の高い方法をある程度想定してから、指導に入っていきます。 1、アプリ「ColorSay」を使ったカメラの操作方法と練習方法 (1)持ち方の工夫  iPhone、iPadのカメラは角にあります。  遠くのものを写す時には、カメラが角にあることはあまり意識しなくてもいいですが、近くのものを写す時には、カメラの位置をきちんと理解していないと合わせられません。iPhoneではないアンドロイド端末では、カメラが真ん中に付いているものもありますが、iPhoneやiPadのカメラの位置は音声ユーザーにとってはいい構造になっています。  画面を自分側に向けた状態でiPhoneを縦長に置いて、右手の中指、薬指、小指でiPhoneの右縁を、親指で左縁をiPhoneの画面側から掴みます。そうすると、手のひらと画面が相対しているようになります。その時に、人差し指で画面の右上角を確認して、1センチ程中に置くようにします。この人差し指の位置がカメラの位置になります。このようにすると写したいものに合わせやすくなります。ここに凸シールなどを貼るのも有効です。 (2)操作の指導方法  視覚に障害がある人にとって、iPhoneなどのカメラをいかに上手に使えるようになるかということは重要なテーマの一つです。  カメラの操作については、中途失明で、以前カメラで写真を撮ったことのある人は、「画角に入る」とか、「カメラを上に傾ける」ということがわりとイメージしやすいです。例えば、「カメラを上に傾けて」とは、もう少し上の空間を写したいということですが、先天性の視覚に障害のある人はイメージし難い場合があります。  「Be My Eyes( ビー・マイ・アイズ)」というアプリをご存知でしょうか?  「Be My Eyes」は、知りたい物をカメラで写して、テレビ電話システムを使って通話相手から情報保障をしてもらうというアプリです。時刻表を読んで欲しいと思った時に、カメラで撮ってOCR(光学文字認識)で読ませることもできるのですが、見えないのでカメラの画角にきちんと入れるというのは結構難しいことです。そこで、このような場合には「Be My Eyes」を推奨しています。  ある講習会の場面で、支援者が「もう少しカメラを離して下さい」と言うと、対象者はカメラを離すことはできるのですが、その意味が伝わらず、カメラと被写体を同時に同じ方向に動かしてしまい、距離が変わらないということがあります。目が見えていないので、「画角に収まる」ということがイメージできにくいことがあるのです。  「カメラを離して下さい」という意味は「カメラが近づきすぎていて、被写体が部分的にしか写っていないので、全体を見渡すためにカメラと被写体の距離を離して下さい」ということです。  このようなことを頭において、対象者に対して何を求めているのかということを理解させるように丁寧に練習していく必要があります。  写るということがどういうことかを認識するためには、被写体を手に持って、iPhoneで撮るということはお勧めしません。右手と左手それぞれ二つの動きがあるため、自分が今何をやっているからこの状態になっているかが整理し難くなります。初めは、被写体を机の上などに置いて、iPhoneを前述した持ち方で持ってもらうのがいいでしょう。  カメラで写す練習としては、アプリ「ColorSay」を使用します。  黒い画用紙を机の上に置き、「ColorSay」を起動します。画用紙を使うのは、机の上におくことで触って大きさが分かりやすいからです。  画用紙の上に、iPhoneをピタリのせると「ColorSay」は「黒」と言います。「これは、画用紙とカメラがピッタリくっついているためです」と伝え、今度はカメラを画用紙から少し離してもらいます。そうすると「黒灰色」といいます。次は、空いている方の手でカメラと画用紙両方を触れるようにあてます。どのようなあて方でもいいです。例えば、右手でiPhoneを持っているとすると、空いている左手の親指で右手の人差し指にくっつけておきます。そこがカメラの位置になります。残っている薬指や小指を画用紙にあてておきます。そしてiPhoneを平行移動していきます。カメラが画用紙の範囲から抜けると、違う色の名前を言います。左手の小指や薬指は、机の上の手触りから画用紙の範囲を抜けたことが分かります。今度は、反対側に動かしてみます。 机→画用紙→机という移動を繰り返し、「ColorSay」の発声と左手の小指や薬指の手触りから、写すということが実感できるようになります。 もし、左手の小指や薬指と触っている画用紙が一緒に動いてしまう場合は、テープなどで画用紙を机に固定しておきます。 (3)距離の取り方(離し方,近づけ方)  iPhoneを画用紙から離す時には、まず画用紙の真ん中にカメラを置き、そこから離していきます。  画用紙から50センチくらい離れたところでは、左右上下に少し移動するだけで写す範囲は変わりますが、画用紙に近い時には、かなりの距離カメラを動かさないと写す範囲は変わりません。このことからカメラと被写体を離せば、被写体は小さく写るということを感じてもらいます。 (4)水平角、仰角の調整法  カメラを水平に移動するのではなく、傾ける(上に傾ける、右に傾ける、左に傾ける、下に傾ける)方法です。この動作を通して「とらえる」ということを体験してもらいます。  まず、黒い画用紙の真ん中あたりに赤、青、黄の色違いの小さな画用紙を1枚ずつ縦長に重ねておきます。ここで、水平に動かす動作と傾ける動作を行います。動かす時は速度も変えながら体験してもらいます。小さな画用紙の色を変えて同じように行ないます。  小さな画用紙の赤、黄、青の3色を隙間なく並べてiPhoneを傾けてみると、どのように写るのかを知ることができます。上手く体験してもらうためには、ゆっくり動かすことが大切です。  「ColorSay」のような色系のアプリは、人の目で見た感覚とは違う色を伝えることが多いです。この時に支援者も一緒になって「こんなの 使えないよね」「これ何色」と色について掘り下げてしまうと、本筋からそれて訳が分からなくなりますので、支援者の方で「アジュールとは、青系の色ですよ」「暗赤色と言いましたが、それが赤色のことですよ」と付け加えるようにしていきます。これは、色系のアプリを使う場合にはどうしても避けられません。「カラーリード」のような光源をもった専用のカラーデバイスであれば、きちんと色を正確に伝えることができますが、iPhoneではそこまでできません。  「ColorSay」を真っ暗なところで使うと、iPhone のLEDライトが自動的に点灯します。  ここまできましたら、実際の靴下を使って色のマッチングを行ってもらいます。  前述しましたが、人の見た目の色をしゃべる必要はありません。この色系アプリの特性を上手に利用して、生活の中で活用していけることを上手く伝えることがインストラクターの立場としては重要です。  ある程度慣れてきたら、被写体を机の上に固定してiPhoneを動かすのではなく、iPhoneを机の上に置いて、被写体の方を動かしていくとより効率的にできます。  また同時に、iPhoneと被写体をピタリとくっつけて離した時に、どれくらい離したら安定して色を読み上げるのかも押さえていきます。カメラは、真っ暗なところから光が入ると白抜けしてしいます。白と黒の認識は、光の関係で難しいようです。平面の物と立体の物でも違ってきますが、読ませる面とカメラが平行になっていることがポイントになります。  カメラ位置が正しく「黒灰色」と読めば「黒色」、「白灰色」と読めば「白色」というように考えて良いでしょう。 (5)「ColorSay」の機能 「ColorSay」は、色が変わったことを認識しないと読み上げないことも伝えておく必要があります。  何も言わないのは、色が変化していないということになります。 「ColorSay」の読み上げる色の種類は、左上にある「設定」の中の「色群」で、「基本」から「全」までの6段階で16から386種類まで設定することができます。  読み上げる色の種類をあまり多くしても分かりづらいので、日常生活の中では16種類から始めて、赤、青、赤系、黒、白が把握できるようになれば良いのではないでしょうか。それだけで音声ユーザーのコミュニケーションの幅を広げることに繋がります。  音声ユーザーの方からは、「これ何色?」だったのが、「これ青系でしょう」と発信でき、新しいコミュニケーションスタイルができるようになった人もいます。  「ColorSay」は、色を判断するエリアも変更することができ、画面中心部の四角で囲まれたエリアの色の平均を読むモードとドットを読むモードがあります。デフォルトでは、エリアを平均して読むモードになっています。さらにそのエリアの大きさは13%から100%まで変えることができます。この認識するエリアの大きさが広いと、色の変化する境界が分かりづらくなりますし、柄物の靴下などを調べる時に、エリアの中に2、3本の線などが入ってしまうと、エリア内の平均した色を読み上げることになってしまい、正確な色を知ることができなくなってしまいますので、エリアはあまり広げない方がいいでしょう。 (6)台への固定  iPad用やiPhone用の固定台に机が写るくらいの角度をつけてiPhoneを固定して使います。  カメラとの位置関係が分かりやすくなるので、大体この位置におけば画角に入るということが分かり、操作が速くなります。読ませたい物を固定する方法もありますが、iPhoneを固定する方法でやりやすくなることもあります。 2、QRコードを活用したカメラのレンズの当て方の指導法  「設定」の中の「カメラ」メニューの中に、「QRコードをスキャン」の項目がありますので、有効にしておきます。  QRコードが紙一杯に印刷されたA4用紙を準備し、カメラアプリを起動します。人差し指がカメラレンズの位置にくるように持ち、人差し指がA4用紙の真中にくるようにして、iPhoneを置きます。徐々にiPhoneを紙からゆっくり離していきます。どこかの位置でQRコードが読み上げられます。紙からどれくらい持ち上げると読み上げるのか、何度か繰り返して高さを意識して下さい。       この操作は、視覚が使えない人が行なうので、視覚が使える人は目を閉じて行なうようにします  このQRコード用紙は、 A4の紙一杯に印刷されているので、紙からどれくらい離すとA4が画角に入るのかがつかめるようになります。次は、ハガキ大の用紙一杯に印刷されたQRコードを読む練習をします。  A4の用紙の時と同じように、どれくらい離すとハガキの大きさが画角に入るのかをつかめるようにします。  距離感がある程度つかめたら、次はカメラの位置と写したいものとの対応関係をつかむ練習をします。A4の四隅と真中にQRコードを印刷したものを使用します。それぞれのQRコードが読み込めれば、カメラを対象物に正しく向けられているということになります。 3、その他のカメラ操作の指導法  カメラの操作練習として、例えば6色のサイコロを活用した色合わせゲームなどを取り入れることで、iPhoneの操作を楽しく練習していくことができます。  また、色の違う靴下を3組程用意しておき、バラバラになった靴下の色を揃ええるという練習も、生活の中でもどのように活用するのかをイメージすることにもつながり有効だと思います。 「Tap Tap See」のような認識系のアプリでは、立体物を撮ることがほとんどなので、立体物に対してカメラをどのような角度で構えるかがポイントになります。 4、人物の撮影  人に向けて、カメラを向けると顔を認識して、「一人、顔位置 下」などと返してきます。  写真を撮る時は、2本指でダブルタップするか、「音量ボタン」を押します。  iPhoneを縦向きに持って、左下の角を触ると「写真およびビデオビュアーボタン」があります。ここで、1本指でダブルタップすると、今撮影した写真が真ん中に表示されます。  この写真に名前をつけることができます。(この機能は、VoiceOver使用時のみに使える機能です) 画面の真ん中を1本指で触り、2本指で2回目のタップを離さないダブルタップをします。(トントーンという感じです)  上手くいくと「ピューン、ピューン、ピューン」と返ってきます。 ここで、名前を入れ保存します。 「写真アプリ」を開いて、4本指で画面下部をシングルタップすると「検索ボタン」が選択されます。ここで、1本指でダブルタップし、4本指で画面上部をシングルタップ、右にフリックすると「検索フィールド」に入りますので、そこで名前を入れると名前の写真が表示されます。  この検索機能を上手に活用できれば、いろいろなものを写真に撮っておき、整理することができ、必要な時に提示することができます。  この方法は、写真だけでなく、ボタンにも使えます。  VoiceOverで、「ボタン」しか返って来ないボタンがあります。  そのような時には、目の見える方になんと表示されているかを聞いて、そのボタンに自分の分かりやすい名前をつけることができます。 」 標準アプリなどについて 1、 利用状況  グラフは、全盲の人で携帯電話を使っている160人とスマートフォンを使っている43人、弱視の方で携帯電話を使っている82人とスマートフォンを使っている38人を対象にして得られたデータです。  ここでいう全盲の人は、音声ユーザーという定義がされています。  グラフでは、どんな目的で使っていますかということを聞いています。  例えば携帯電話では、全盲の方だと「通話」が98%、「時計」などの使い道があるので100%ではないようです。スマートフォンでは、「通話」が86%です。他に、「メール」は、携帯電話で84%、スマートフォンで86%です。  「時計」が、携帯電話で86%、スマートフォンが74%。「アドレス帳」が、携帯電話が66%、スマートフォンが56%。  「ブラウザ」は、携帯電話が53%、スマートフォンが93%。スマートフォンでの「通話」目的が86%ですから、7%「ブラウザ」目的の方が高いという結果が出ています。スマートフォンの目的の一番は「ブラウザ」だということが分かります。  全盲の人のスマートフォンで次にくるのは「メール」と「通話」の86%、その次に「時計」と「天気」の74%、後は「音楽を聴く」の70%、「ラジオ」の63%、「アドレス帳」の56%、「SNS」の51%と続きます。  携帯電話では、「通話」の98%がトップで、次にくるのは「時計」の86%です。次が「メール」の84%で、その後が「アドレス帳」の66%、「歩数計」の54%、「ブラウザ」の53%、「電卓」の50%という順になります。  スマートフォンを便利に使っている人は、「通話」はもちろん、「ブラウザ」「天気」「音楽」「ラジオを聴く」といった、インターネットを使ったサービスが多いのではないかということが言えます。  弱視の人の場合、携帯電話を「通話」目的で使う人は89%で、全盲の人の場合より少ないです。  スマートフォンでの「通話」は84%です。  「メール」は、携帯が87%に対し、スマートフォンが84%です。  弱視の人の特徴的なところはやはり写真です。  「写真撮影・閲覧」の目的で使う人が、スマートフォンでは82%になります。後は、「路線/乗り換え」「ブラウジング」「アドレス帳」となります。  弱視の人のスマートフォンでは「アドレス帳」や「写真撮影・閲覧」の目的が高いのが特徴になります。   2、大まかなルール(ダイレクトタッチ操作)  大まかなルールを知っておくことは、新規のアプリや操作方法を忘れてしまったアプリの操作をする時の助けになります。自分の行動を計画して操作していくことを目指した時には、ある程度大まかなルールを知っておくことは役に立ちます。  ここで言う「大まかなルール」とは、「画面上のルール」という意味です。  例えば、「左上(信号強度アンテナの下)の位置には、大体のアプリに前の画面(状態)に戻るボタンがある」とかです。  あるいは、タップ操作に慣れてきた人や「フリックするの大変ですね」とつぶやき出した人がいたら、「フリックで戻るのは大変なので、4本指で画面上半分をシングルタップすると先頭項目へダイレクトに移動する」ということを習得してもらいます。  また、「『時計』アプリのように、画面下端の横列にはモード切替ボタンが左右に並ぶことが多い」、「画面の上下端には、左右にボタンが並ぶことが多い」、「画面の中央にボタンが並ぶとしたら縦に並ぶ」「日本のニュースやメールのリストように、画面の中央部には縦にボタンが並ぶことが多い」ということがあります。  このようなことは、最初にまとめて伝えるのではなく、アプリの使い方を練習する中で、「画面の上、左右にボタンが並んでいるでしょう」と付け加えながら説明していくと、対象者が自分の中で次第に緩やかな法則化をしていくことができます。  音声ユーザーの場合は、画面を一目瞭然とはいきませんから、法則性が重要になってきます。法則化が確立しやすいようなインストラクションの仕方を考えておくといいでしょう。  ただし、対象者にとって情報過多なってしまう(5必要な時に10の情報を発信する)と、結局1か2しか定着しないということになりますので、そこは見極めが重要です。 3、電話アプリ  電話アプリを立ち上げると、画面一番下に左から「よく使う項目」「履歴」「連絡先」「キーパット」「留守番電話」というように5つ並んでします。  キーパットで入力することは初心者にとっては高度なことです。ですから「連絡先」に切り替えてと操作をすることになります。電話アプリのデザインでは、ホームボタンの上に「連絡先」がありますので、そこを「ダブルタップ」します。先述した、おおまかなルールにおける法則性で言うと、アプリの真ん中にリストが縦に並んでいます。  電話を掛けたい人が「あ」行の人だといいですが、例えば「渡辺さん」に掛けたい場合は、「目次索引」で「1本指で上又は下にスワイプ」することで「あ」行、「か」行、「さ」行と移動して、目的の「渡辺さん」がある「わ」行のところまで容易に移動することができます。「わ」行にたどり着いたら、そこから「右フリック」で「渡辺さん」まで移動して電話を掛けることになります。  この「目次索引」へのフォーカスのあて方を初心者に教えるのは難しいと思います。  ローターで操作することもできますが、iPhoneの画面上部にあるスピーカーの位置から「ダイレクトタッチ」で下にさがり、「検索」にフォーカスをあてておき、そこから「右フリック」で「目次索引」に行くようにすると見つけやすいです。  「連絡先」の良いところは、50音順に並んでいるという概念が携帯電話と似ているので、「右フリック」「左フリック」の原理が大体飲み込めていると、「と」から始まる人を探すのであれば、「な」行まで行ってから戻ればいいという操作はほとんどが問題なくいきます。「な」行から「左フリック」すればよいという操作と結びついていけばいいでしょう。  もう一つ重要なことは、「フリック」動作が安定していないと、いつまでたっても循環してしまいます。 「中村さん」からいくら「フリック」しても抜け出せないのは、時々「タップ」の操作が混ざっているということを自分自身でモニターできるよう、声掛けをしながら進めていくことが大事です。  この対策としては、「連絡先」の操作に入る前、最初に「VoiceOver」の操作練習を10分から15分行った方が、対象者が自分の操作の癖を把握できやすいです。操作練習をしていないと「今、『タップ』になりました」と対象者に伝えても分かりづらいです。  電話を切る時は、画面上を「2本指ダブルタップ」します。また、ブルートゥースのイヤホンを使っている場合は、イヤホンから切ることもできます。  「らくらくホン」から連絡帳をiPhoneへ移行している場合などは、メールも移行されています。その場合には、もう1操作する必要がありますので、画面構成がきちんと分かっていないと操作が難しいかもしれません。  基本的には、初心者に教える時はあまりバリエーションをつけないということと、後で説明をDAISYで聞きながら、一人で電話が掛けられるといった、再現性が大事になります。  そう考えると、「フリック」操作で、始めは統一して練習する方法がいいでしょう。  しかし、対象者の「フリック」動作が安定しないという場合、その人の身体状況、運動状況を見極めていくことになります。定形上多くの場合、「連絡先」から電話を掛けたい人の名前を開いた時には、画面の中のどこかに電話番号が表示されているので、「フリック」がどうしても不安定すぎる、再現性がない人の場合には「ダイレクトタッチ」で画面の上から撫でて、電話番号のあるところまで下げていくという方法もあります。  「ダイレクト」操作も「フリック」操作もどうしても難しい場合や初心者の場合には、「Siri」を使って電話を掛けるという方法もあります。  「Siri」を使って電話を掛ける場合には、連絡先に2つ以上登録しておくと操作が増えますので、同じ人でも登録名を変えて、1つずつ登録しておくと簡単に掛けることができます。 4、Safari  先程の調査でもありましたように、スマートフォンを使っている人の93%がブラウザを使っています。ブラウザを使う上でのポイントは文字入力になりますので、オンスクリーンキーボードの習得が必要になります。また、新聞やニュースを読みたいということであれば、それぞれに特化したアプリがありますから、アプリから入るのが無難です。  また、ブックマークをインストラクターの方で予め登録しておくという方法もあります。 5、コンパス  コンパスを立ち上げ、iPhoneを水平に保ったまま回してみます。30°毎にiPhoneが「ビクッ」とし、方角を読み上げてくれます。自分の進む方角を調べたり、駅の改札を出て、南口の方向を調べたりすることができます。 6、ボイスメモ  録音ボタンで、ダブルタップして録音を開始します。 再生は、録音を停止してから、右フリックをしていくと「再生」ボタンがありますので、ダブルタップして再生します。 「設定」の中の「プライバシー」にある「位置情報サービス」をオン、「ボイスメモ」をこのAppの使用中のみ許可に設定しておけば、録音したタイトルに録音した場所が入ります。  また、録音した時間も記録されています。  パソコンとiPhoneを接続し、転送し再生することができます。  ICレコーダーを使われている方もいると思いますが、このボイスメモは、使う場面によっては、ICレコーダーよりも使いやすいのではないかと思います。 7、地図(行き先案内) (1)「BlindSqare」:  「同行援護を使っていて一人で歩くことはないから、このようなアプリはあまり意味がない」とか「使いどころが分からない」という話もあります。  ですが、ガイドヘルパーと一緒に歩いていたとしても、街歩きをする時には、片耳は塞がってしまいますが、イヤホンを掛けながら歩くと違う展開があるのではないでしょうか。  タクシーに乗っている時などでも聴いていると、「この辺になにかあるんだ」とか「いつもここ通っているな」ということが分かります。  視覚に障害のある人が「なんか飲食店ない?」と聞いたときの説明としては、おそらくガイドヘルパーはできるだけ視覚情報を網羅的にとか、あるいはカテゴライズしてサブカテゴリに入って説明するなどの訓練を受けているでしょう。ですがそこには、何らかのガイドヘルパーなりのフィルターが掛かっています。人がそこに介在している以上、それが良いとか悪いとかということではなくて仕方がないことです。  その時に例えば、視覚に障害のある人自身が飲食店情報を事前にとっておいて、「右の方に、スタバがあるのではないですか」とかいう関わり方ができるようになると、ガイドヘルパーとの関わり方も、もっと主体的になれるのではないでしょうか。  このアプリは、視覚で捉えられない情報を、GPS情報を基に捉えるということがおもしろい所です。しかも、3時方向というように方向まで教えてくれるので、ある程度具体的にイメージがしやすいです。   (2)「ViaOpta Nav」  視覚障害者用のナビゲーションアプリです。画面構成もシンプルで、視覚障害者が操作しやすく設計されています。 アプリを起動させると、画面の下3分の1に「現在位置」のボタン、上3分の2の右半分に「検索」ボタン(VoiceOverでは、「新しい目的地」と返してきます)。  左半分に「お気に入り」ボタン(VoiceOverでは、「お気に入りのリスト」と返してきます)があります。 「現在位置」を選択すると周辺にあるお店や施設の情報提供してく れる「周囲の情報」ボタン(VoiceOverでは、「周囲を検索」と返してきます)が画面の下5分の1右側にあります。  「周囲の情報」を選択すると周囲にあるお店や施設が幾つかのカテゴリーに分かれて表示されます。  自分の行きたい所を選択します。  目的の場所を選択したら、右下に「ここへ向かう」ボタンがありますので、選択します。  画面の下に「現在地」というボタンがあります。その上の右側にある「ルート」ボタン(VoiceOverでは、「ルート概要」と返してきます)を選択します。  画面の上、中央から下になぞっていくと「ナビを開始」ボタンがありますので、選択します。  「進む方向を知るにはデバイスを持ったまま、ぐるっと回ります」と返してきたら、iPhoneを持って回ります。iPhoneが「ブルッ」と震える方向が、進む方向になります。  表示された場所の中に目的の場所がない場合は、アプリを起動させた時に、上3分の2の右半分にあった「検索」ボタンから検索できます。 これを使って一人で外出している人もいます。ガイドヘルパーさんと一緒に外出する場合にも、 このナビを使い、行きたい所を自分で探しておき、道順をガイドヘルパーさんに伝え、ガイドヘルパーさんから、危険回避などの支援を受けながら目的地に行くという主体的な行動ができます。  現在地を登録する機能もあります。先程の「周囲の情報」ボタンの左横にある「アクション」ボタンを選択します。「保存」「共有」     「キャンセル」のボタンがありますので、その中の「保存」ボタンを選択します。 「説明を入力」のテキストフィールドの中に、場所を入力し、「OK」ボタンを選択し、保存します。  登録した場所は、アプリを起動したときの最初の画面にある「お気に入り」ボタンを選択すると登録した場所の一覧がでます。 「ホテルに戻る」とか、「以前行ったお店に行く」とかの場面で活用できると思います。  「色を調べる」「お札を読み上げる」「GPS」機能がある福祉機器をそれぞれ一通り揃えると、おそらく30万円近くかかります。iPhoneだと、本体は10万円位で買えて、アプリを追加するにしても随分安いです。その考え方はとても大事で、iPhoneを補装具まではいかないまでも、日常生活用具の機器にできればという話にもなりますが、現状はなかなか難しいところです。  施設情報は大事です。一人旅をすることが多い人は、ホテルに入った後、周りにコンビニがあるとかそういう情報だけでも分かるとちょっと安心できます。 「ViaOpta Nav」もそうですが、現在地が登録できることで、鳩が家に帰ってくるように、宿泊先から飲みに出掛けても帰ることができます。そのように活動する人には便利です。  周辺情報が入手することで言えば、「BlindSqure」は4,000円弱ですが、「imove」は無料です。「map」アプリなどでも、リアルタイムで歩きながらでは教えてくれませんが、ざっくりとした情報は「Siri」で教えてくれます。 8、その他のアプリ (1)ラジオ  全盲の人のスマートフォンの利用目的で多かったのは「ラジオ」で、63%です。  アプリとしては、「radiko」がありますが、アップデートしてボタンが多くなり、目的の放送局が見つけにくくなり、最近は使いにくくなってしまいました。「radikker」は、ボタンが少なく使いやすいです。  ラジオが聞けると、ガラケーからiPhoneに移ってきた人にとっては、ポイントが高いです。  「らじるらじる」は、アプリ名が「NHKラジオ」に変わり、設定できる地域が増えました。 (2)Light Detector  「Color Say」等のアプリを使う時には、部屋の明るさがどうなっているかが分かっていないといけません。その時に使うアプリが「Light Detector(240円)」で、明るさを検知して音で知らせてくれます。自分の家で、明かりをつけている状態が何%かが分かっていると、明かりがついているのか、消えているのかが分かります。  明かりがついているか、消えているかは、直接触れば分かるのですが、最後に確認するためにあれば便利な人はいるのではないでしょうか。  家族が確認を全部やってしまうとあまりメリットがありません。ロービジョンのリハビリのプログラムにもありますが、家族の協力がある程度重要です。何のための協力かというと、自立するということも目的の一つです。iPhoneがなかったとしても、家族の方が献身的にやってくれれば生きていけます。電話だって、言えば掛けてくれる。究極の話をすれば、何もいらないんじゃないかとなってしまいます。  ですが、「一つでも役割を増やしていってあげて下さい」という協力関係が得られると、本人にとっても、下がってきつつあった自尊心や自己肯定感を上げていくことによって、積極的な生活をまた設計できるのではないでしょうか。  「Light Detector」と同じ機能は、「カラリーノ」にも備わっています。これもカメラの向きが重要です。天井に向けると蛍光灯が写りますし、カメラを下に向けるとテーブルの明るさを測定しますので、その辺りの関係性が分かるようになるといいでしょう。  実際にアプリで行なう時には、蛍光灯をつけたり、消したりしてやるといいです。 (3)言う吉くん このアプリもカメラの操作がポイントになります。お札を上手に仕分ける時に、ちょっとあれば便利なアプリと思ってもらえるといいかもしれません。お札自体も、これまでは家族に財布に入れてもらっていたという場合にはいいアプリです。  世界のお札を読む「マネーリーダー」というアプリがあります。少し高額ですが、「言う吉くん」に比べると認識が早いです。  このようなアプリは、レジの所で使うということはありえないので、基本的には出掛ける前にやるか、遅くともレジに行く前にちょっと確認するというような活用の仕方まで説明することが重要です。  テクノロジーに懐疑的な人は、「そんなのレジで使えないじゃん」という思考に入ってしまいます。  そこは、「そうですね、レジでは使えませんよね」というような話しをして、「出掛ける時は、お札はどのようにしてご自分で入れていますか?」と聞くようにしていきます。  比較対象になるお札がある時はいいですが、一枚しかない時は困ることがあります。お札を触って調べる時には、識別マークではなく、長さやホログラムの有無等で判断をしますが、新旧のお札が混じっていると分かりにくくなりますし、劣化していると更に分かりにくくなることがあります。  ですから、実際に触ってもらいながら確かめるのと「言う吉くん」を使って確かめるのでは、今の自分にとってはどちらがいいかを考えてもらうのもいいでしょう。 (4)VOD(Voice Of Daisy)  「VOD」は「サピエ」のデータを直接ダウンロードできない場合にアプリを使うのですが、ダウンロードの途中で、待っていればいいのかバグっているのか状況が分からなくなります。  また、iPhoneをロックする時間を長くしておかないと、途中でロックされてしまいます。  電話を待っている時などは、「VOD」を使ってiPhoneで本を読むことができるので便利ですが、データ転送が楽ではないのが難点です。  まず「safari」で、「サピエ」に接続します。「デイジーデータ検索」がありますので、そこで目的のデータ名を入れて検察します。目的のものを決定してダウンロードします。  画面が見えていると、アドレスバーの下のところに細い帯グラフが伸びていっているのが見えます。 その時に「カチカチ」音が聞こえます。ダウンロードが完了したら、「VOD」を使って開きます。  これは、アクティブのアプリですので、「2本指ダブルタップ」に対応しています。  画面をホーム画面にしていても、「2本指ダブルタップ」で止めたり、再生したりすることができます。 (5)スマートニュース(SmartNews)  ニュースが、「トップ」「エンタメ」「スポーツ」「国内」「政治」等、カテゴリー別のタグで整理されています。  1回目の起動の時は、年齢などを尋ねてきますが、入力せずに進むボタンを押すと、入力は回避できます。  アプリが起動したら、1本指で上から下に撫で、画面の下、5分4くらいの範囲が記事の一覧になっています。記事の一覧に到達したら、1本指で右にフリックすると記事を確認できます。  この記事を読もうと思ったら、そこでダブルタップしていきます。  右にフリックし続けるのは面倒なので、2本指で下にフリックすると、今いる所から自動で読んでくれます。  2本指で上にフリックすると、その画面の上から自動で読んでくれます。  自動で読み上げるのを停止するには、2本指でシングルタップします。 違うカテゴリーの記事を読みたい時には、1本指の左フリックで戻ることもできますが、4本指で画面上部をタップすると画面の最初の項目に戻ることができます。  画面の最初の項目は、アプリによって異なります。  SmartNewsの最初の項目は、「記事の更新」ボタンになります。  右にフリックしていくと、タグにたどり着きます。  右にフリックして自分の読みたい記事があるタグを選択します。 (6)Aipoly Vision  無料で、カメラに写った物を認識する機能と色を認識する機能が使えます。 (7)iよむべえ(OCRアプリ)  有料のアプリですが、活字を読み上げてくれるアプリです。  ライブ機能というものがあって、カメラを向けたところにある文字を読み上げてくれます。  ペットボトルのような丸い物に印刷されたものも読み上げることができます。カメラに文字が入ると読み上げると同時に、iPhoneが「ブルッ」と震えるので、文字があることがわかります。 9、カメラで撮る際の環境整備  OCRアプリで、カメラをどの位置にかざせば、紙を全部画角におさめられるかは、アメディアから6,500円くらいで専用の物も発売されています。同じような物をコクヨのファイルボックスを使って700円くらいで自作することもできます。また、富士通からは「SnapLite」というものが発売されています。これは、ブルートゥースでiPhoneと繋がるので、置いているスタンドのボタンを押すとシャッターを切ることができます。スタンドタイプの蛍光灯のような形で、電球がついている辺にiPhoneを乗せられるようになっていて、「SnapLite」アプリを起動してiPhoneを乗せるとブルートゥースに自動的に接続されて、電気スタンド側のボタンを押すとシャッターが切れます。電気スタンドの電球がついている辺から机に向かってレーザーが出ていて、A4サイズをこの線に合わせますよという線が机に写ります。工夫は何かというと、レーザーの線の所にメンディングテープを貼って、そこに合せるようにして使います。レーザーが出ていて位置合わせができるのと、台自体が照明を持っているので光環境を統制できるというところが良い点です。  この冊子は、平成28年度、平成29年度、平成30年度ふくおか地域貢献活動サポート事業 協働助成事業(自由提案型)の助成金で開催された「視覚障害者へのタブレット端末インストラクター養成研修」において、氏間和仁氏(広島大学学術院教育学研究科 准教授)による講義をまとめたものです。   なお、冊子にあるスライドの著作権は,氏間和仁氏に帰属するものとします。 iPhone(Voice Over編)インストラクター養成テキスト Ver 3 2019年3月30日 作成 作成 タブレット端末インストラクター養成事業の推進に関する協議体 立目 章 北九州市障害児者へのコミュニケーション支援・IT支援を考える会 須藤 輝勝  北九州市視覚障害者自立推進協会あいず 松本 大史 北九州市障害者社会参加推進センター 和田 親宗  九州工業大学大学院生命体工学研究科 高  清秀  北九州市視覚障害者自立推進協会あいず 櫻木 奈緒子 北九州市障害者社会参加推進センター 待木 浩一 北九州市障害児者へのコミュニケーション支援・IT支援を考える会 村上 郁夫  北九州市障害児者へのコミュニケーション支援・IT支援を考える会